結晶とはなにか (平山令明)【読書】

      2015/01/13

美しさと純粋さの秘密に迫る。

結晶とはなにか 平山令明

平山令明著『結晶とはなにか 自然が作る対称性の不思議』読了。2012年講談社ブルーバックス刊。222ページ。

水晶、ルビー、ダイヤモンド、食塩、砂糖……。私たちのまわりには、多くの結晶があり、太古から私たちを魅了し続けてきました。それでは、結晶とは物質のどういう状態なのでしょうか?それは、純粋さと、化学結合と、対称性の素晴らしい自然の産物なのです。

via: Amazon内容 (「BOOK」データベースより)

今年 (2014年) は「世界結晶年」であるらしい。もう年末なので、「であった」と言うべきか。そんな年の瀬にピッタリの一冊『結晶とはなにか』。何ともど真ん中なタイトルだ。

ぼくは大学院時代、X線結晶構造解析を専門にしていたので、本書に書かれているようなことはほとんど知っている。

なので本書を読むにあたっては、「学ぶ」とゆうよりも、どうわかりやすく説明しているのか、とゆう視点の、ちょっと上から目線で読ませてもらった。

肝心の「結晶とはなにか」とゆう問いについては、本書を通読すれば、おぼろげながらイメージが掴めるのではないだろうか。対称操作に基づいた規則的な配列からなる固体。一言で表せばこんなところだろうか。

ただ、それを言うだけじゃ一冊の本にはならないし、知ったところでわかったことにはならない。

そこで本書では、特に「対称操作とはなにか」とゆうことについて、かなり実践的な説明がなされている。これがしつこいと思えるほど丁寧で、とてもわかりやすい。

昨今では結晶構造解析もかなり容易に行えるようになったので、構造解析屋さん以外の研究者でも「結晶構造」というものに触れる機会がとても多い。

本書はそんな、合成屋さんや生物系のような「構造解析を本職としない」研究者が、「結晶ってなに?」を知るためのファーストチョイスではないだろうか。

対称性や空間群なんてものは、本書を読めば明らかなように、大して難しいはなしでもなくて、単なるタイルの並べかたなのだが、数学が絡んでくるのでちょっととっつきにくい部分もある。

格式張った専門書 (専門書ってのは大体がカッコつけだ笑) で真正面から学ぼうとすると、群論などの高度な数学を通過しなければならなくて、少々難解そうに見えることもある。そして、合成屋さんや生物系の研究者ってのは、大抵数学が苦手だ笑

本書は啓蒙書なので、数学的な厳密さにはもちろん拘らない (いつか他の本で学んでね) 。

それよりも画 (ト音記号。結晶中では複雑な構造を持った分子) を回転させたり鏡に映したりして実際に動かす (これがまさに対称操作だ!) ことで、特定のパターンが空間が埋めていくさまを実際に「体験」する。実践的!

そうそう、一般には身近なNaCl (食塩) やダイヤモンドといった結晶の対称性は高すぎる、とゆうのも実に厄介なんだよなあ、なんてことも思ったりした。

化学や物性物理学の教科書 (あるいは授業) でも、扱われるのは面心立方とか、体心立方なんかが多い。

けどそれらの結晶構造って、格子点の並びは単純でも、対称操作を基本とした「空間群」て側面から見ると、めちゃくちゃ複雑になってしまう。それにそんな空間群、有機結晶ではまずお目にかからない。

それよりは、P21/cあたりをちゃんと理解するほうがよっぽど重要で、本書はそのあたりにも配慮が見られる。

最初から丁寧に読んでいけば、空間を同じパターンで隙間なく埋める、つーのがどーゆうことなのかを、素直に理解できるような流れになっていて巧い。単純でわかりやすい一次元の事例からはじめて、2次元、3次元へと拡張していく。

んで最終的には、P1とかP212121て記号の意味を、(群論の細かいはなしは抜きにして、て意味で) “何となく”理解できるようになる。ステップバイステップで学べるようになっていて初学者にも親切だと感じる。

個人的に面白かったのは、枝葉の部分。

まず、1章の結合力に関するいろいろ。ロンドン分散力の正体が誘導双極子、てのは恥ずかしながら知らなかった。まあ、ファンデ”ア”ワールス相互作用、て呼び方かたは正直どーかと思ったけど笑 (普通ファンデ”ル”ワールスだろ) 。

それと、4章の結晶成長に関する話題も、素人には非常にわかりやすかった (このあたりは逆に合成屋さんにとっては退屈、なのかな?) 。結局のところ構造解析って、キレイな結晶が得られれば勝ち、みたいなところがあるからなあ。

本書に書かれてるのは結晶成長の基礎のキソ、て内容だったけど、平易な文章で整理されていて読みやすいし、いろいろ気づかされることもあって面白かった。

たとえばなしはやや鼻につくものの、全体的に丁寧でわかりやすい本だった。結晶学の初学者にピッタリの一冊。

「合成してたら結晶ができたから、今度はじめて構造解析することになったんだけど……」、みたいな学生に、とりあえずこれ読んでみて!て感じで、まずオススメしたい。

おわり。

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オマケ

世界結晶年

なぜ2014年が世界結晶年だったのか、とゆうのは「世界結晶年委員会」の公式ページが詳しい。

世界結晶年2014日本委員会

100年前の1914年、X線回折の父ともいうべきマックス・フォン・ラウエがノーベル物理学賞を受賞したことが、直接的な由来っぽい。

さらにはその1年後 (99年前) の1915年には、ブラッグの式でおなじみのブラッグ親子 (ヘンリーとローレンス) がやはりノーベル物理学賞を受賞している。

今日の結晶学の礎ともいうべき業績がこの時期に集中している、とゆうのも2014年が世界結晶年となった一因のようだ。

我が国でも、寺田寅彦や西川正治はこの100年前のラウエやブラッグらと同時代人だし、さらにその少し後には中谷宇吉郎の「雪の結晶に関する研究」なども出てくる。

日本の結晶学の歴史については恥ずかしながらほとんど知らないので、いずれ詳しく学んでみたい。

参考図書

巻末に「もっと進んで勉強してみたい方のために」と題して参考図書が紹介されている。気になったものを数冊ピックアップ。

  • 板倉聖宣、山田正男『固体=結晶の世界』
  • 平山令明編著『有機化合物結晶作製ハンドブック: 原理とノウハウ』
  • 坂部知平監修、相原茂夫編著『タンパク質の結晶化』
  • 大川章哉『結晶成長』
  • 黒田登志雄『結晶は生きている』
  • イアン・スチュワート『自然界に秘められたデザイン』

読み物的なやつはいずれも読んでみたいなあ。

ぼくからのオススメは以下。本書の内容よりもやや進んだ専門書としては、今野豊彦先生の『物質の対称性と群論』が、この分野のバイブルと言っていい。

本書同様、対称操作や空間群の実践的な応用から入って、群論の数学的な取り扱い、さらには物性論への応用と進んでいく。やや高度 (大学院生向け?) だが、記述が丁寧でわかりやすい。

それと、本書の著者である平山先生は、X線結晶構造解析に関する専門書も書かれている。

多くの研究者にとっては、「結晶とはなにか」よりも、「どうやって構造を解くか」のほうが重要だったりする。 その「構造を知る」ための強力な手法がX線結晶構造解析で、本書 (5章) では駆け足で触れる程度だった。

本書の内容じゃ物足りない、もう一歩進んで「構造解析」についてより深く学びたい、とゆうひとにピッタリな一冊。

専門書とはいえ、構造解析を本職としない化学・薬学 (生物) 系のひと向けに書かれたものなので、入門的かつ実践的で読みやすい。本書の次に読むべき「2冊目」としてオススメ。

改めて、今回読んだ『結晶とはなにか』はこちら。kindle版もあるようだが、価格は紙の書籍と同じだ。図が多いので、紙のほうが読みやすいかな?お好みで。

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