なぜ理系に進む女性は少ないのか?【読書】

      2015/01/16

男女で生まれつきの能力差があるのか?

なぜ理系に進む女性は少ないのか

2015年最初の読了 (読んでたのは年跨いでだけど) は、『なぜ理系に進む女性は少ないのか?』。「1冊目」から実に刺激的な内容で、めちゃめちゃ面白かったー!早くも今年のベスト候補。

サマーズ発言

のっけから残念なお知らせで恐縮だが、タイトルの問いに対する明確な答えは、本書には示されていない。そーゆう意味ではある種の「釣り」と言えなくもない。

そんなタイトルが付いた理由は、本書が出版された経緯と関係している。

事はハーバード大学の学長だったローレンス・H・サマーズが「理系分野 (主に数学・物理学・工学) に進む女性が少ないのは、女性が男性よりもアタマが悪いからだ」“とも受け取れる”発言をしたことに端を発する。

(発言の正確な記述は本書を参照。以下同様に、意訳したカタチで示す箇所がいくつかあり)

果たして本当にそうなのか?女性は男性よりも (あるいはその逆も) 何らかの能力で劣っているのか?男女の能力に差はあるのか?そもそも「能力」とは何か?適性に測られているのか?……。

サマーズ発言は (当然というべきだが) 大いに議論を巻き起こした (ちなみにサマーズは、この発言が発端となって退陣に追い込まれた) 。

そんな問題発言を受けて、数々の疑問に答えるために編纂されたのが本書である。「なぜ理系に進む女性は少ないのか?」とゆう問いに対する、さまざまな見解が集められている。

分野は多岐にわたる。脳科学、心理学、社会科学、認知科学、ホルモンなどの生理学、進化論などなど、あらゆる分野の第一人者たる研究者が、それぞれのアプローチで議論を展開していて、そのことごとくがイチイチ読ませる。

本書を読むと、自分がいかに無知であったかを思い知らされる。近しい異性だけを見て、「オンナ (オトコ) ってバカだな」なんて思ってしまうことはよくあるが、その認識のいかに狭いことか。

無知どころか、問題を知ろうともしていなかったのだ、とゆうことを痛感させられる。

男女平等!だとか、女性の社会進出!女性が輝く社会!なんて声高に叫んだところで、問題の本質を知らないことには何も始まらない。

そう、まずは知ることから。まず現状を知ろうぜ、その上で議論しようぜ、てのが本書の目指したテーマなんだと思う。

厄介なエビデンス

理系分野に関わる能力において、女性が男性よりも劣っている”と取れる”エビデンス (科学的根拠) はいくつかに存在する。

ある種の空間認知能力のテストでは、男性のほうが女性よりも点数が高いという有為な差がある。地図の読めない女、てやつだ (逆に言語能力は女性のほうが高い。話を聞かない男) 。

頭の中で立体を想像して回転させたり、展開図から組立図を想像したり、なんてのは女性のほうがやや苦手であるらしい。

あるいは数学や物理学の試験 (たとえばSAT-M。アメリカのセンター試験みたいなやつ) の点数で、上位数%の高得点を取る女性の数は、男性よりも圧倒的に少ない。

以上のエビデンスが、理系に進む女性が少ない理由、とはもちろんならない。これはむしろ本書の土台であり、議論はもう一歩踏み込だ先にある。

空間認知能力に男女差があるのはなぜか?空間認知は理系分野に進む上で不可欠な能力なのか?そもそも試験の方法は適正なのか?などなど。

土台はおなじなのに、議論はあらゆる方向に展開する。15人の著者がそれぞれ1章ずつ書いているのだが、同じデータから違う結論を導き出していたりするからややこしい。

本書には膨大なリファレンス (学術論文がほとんどだ) 、つまりは「エビデンス」が提示されていて、読者も議論に参加・検証できるようになっている。そのあたりはなかなかフェアなのだが、この「エビデンス」ってのが実に厄介だと感じる。

イチイチ検証したわけではないが、自分に都合のいい「エビデンス」だけを拾い集めて、論を展開することがいくらでもできてしまう。反論となるような多くの「エビデンス」は無視して、だ。

現代科学は分野が細分化されすぎているせいか、そんなことは往々にして起こる。答えはひとつではないのだ。科学って、ムズカシイのね。

それと、心理学の実験は、製薬などの医療研究とも似たところがあるようにも感じる。

認知に関わる実験だけに、プラシーボのようなことが簡単に起きてしまう。それはテストされる側はもちろん、する側にも起こる。問題は我々の内部にあり。

こうゆう結果が出てほしい、なんて思ってると、その通りの結果へと知らず知らず誘導してしまう、なんてことが起こる。これも”都合のいい”「エビデンス」と繋がるなあ。

と、以降は本書自体にまとまりがないので、感想も自然と雑談的になってしまう。面白いなあと思ったところを、特にまとめるでもなく、つらつらと書き連ねていく。

ともすれば枝葉の枝葉みたいな箇所にグッときたりもしたわけだが、まあ、いろんな読みかたがあっていいだろう。そーゆう意図も本書は含んでいる、と都合よく解釈しよう。

天才とバカ

本書は千人にひとりといったレベルの天才を問題にしている。その領域では男性のほうが多いという「エビデンス」がある。

面白いのはそれ以前のはなしで、まず平均的な点数で男女に差はない。つまり多くの凡人に性差はない、とゆうことだ。

さらに点数分布のグラフを見ると、女性は上に凸の曲線を描く (平均点が一番多い) が、男性は下に凸の曲線を描く。これはけっこう衝撃なのだが、よくよく考えるとぼくの中での男女のイメージと合っているような気もする。

女子ってどの勉強もコツコツやって、みんなそこそこ良い点を取るよね。反対に男子は、やんないやつはホントにやんない笑。

点数分布で言うと、男性には天才が多いかもしれないが、同様にバカもたくさんいる、とゆうことだ。天才については本書で大いに議論されてるものの、じゃあバカのほうはどうなのよ、とも思ってしまう。何だかとてもモヤモヤ笑。

ステレオタイプ

ぼくの中での男女のイメージ、などとサラッと書いたが、そーゆうのはステレオタイプ、あるいは (ジェンダー) スキーマという。

思い込みや偏見に基づくレッテル、みたいな意味合いだ。この影響がかなりバカにできない。しかもその傾向は、女性の側により強い。

簡単に言ってしまえば、女性は理系が不得意、という思い込みは、女性の側により強い、てことだ。

あとこれは理系に限らずだけど、仕事のデキる女性は性格がキツい、なんて思い込みには思わず笑ってしまった。確かにそう感じるかもなあ。しかもこの傾向も、女性により強い。女の敵は女、とゆうことか。

ほかにも「成功は自分の成果、失敗は周囲のせい」なんて思うのは男女共通のようだが、女性は挫折に弱い (つまりは凹みやすい) とか、リスクをとらない、努力をしない (いずれも男性に比べて) 、なんてデータも面白い。

ここではイチイチ書かないが、本書ではもちろん、その根はどこにあるのかまでちゃんと考察している。

文化と教育

本書は主にアメリカにおけるデータに基づいている。男子のほうが女子よりも理系科目の点数が高い、というのは概ね各国共通なのだが、国同士で比較すると面白いことがわかる。

たとえば日本 (や台湾・シンガポール) の女子は、アメリカの男子よりもはるかに点数が高いのだ。

そのくせ日本は女性の社会進出が激しく遅れている何で?て疑問はひとまず置いといて、これは文化によって理系科目の能力が異なる、てことを意味している。

つまりは環境や教育によって、理系科目の点数 (あるいはそれに関連する能力) は向上可能だということだ。能力は先天的なものではなく、向上させることができる。

ちなみに、「能力は向上可能」という考えかたを持つ女性は、ジェンダースキーマの影響を受けにくいという研究結果もある。教育、あるいは現状を知らしめることが如何に重要かということが、この点だけでもよくわかる。

教育の重要性、影響力の甚大さをもうひとつ。

男のコは男のコらしく、女のコは女のコらしく、そんな育てかた、というよりは親の価値観によって、女性が理系を選択しにくくなっているという考察も興味深い。

ざっくり言うと、男のコは外で遊ばせるのに対して、女のコは家の中で遊ばせる (危ないから) 。男のコは外で遊ぶことで行動範囲が広がり、刺激も増えて、空間認知能力が養われる。

テレビゲーム (これも男のコが好む遊びだ) も空間認知を養うのに一役買っている。

男はモノに、女はヒトに興味を持つ、なんてのもなるほどなあと思わされた。そーゆう部分はたしかにあるかもしれない。

そして男のコはこう!女のコはこう!みたいな価値観は (これもと言うべきか?) 、母親により強い。母の影響力は甚大なり。

さいごに

大事なことをさいごにもうひとつ。あらゆるエビデンスは、個々人については何ら説明していない、ということだ。

統計データに基づいて議論を展開してきて、その結論は何なん笑、と思わないでもないが、一概に「だからオンナ (オトコ) は……」なんてふうには言えない、てことだ。当たり前だけど忘れがちなこと。

本書の性格上しかたのないことだが、まとまりはないし何度もおなじことを言っていたりして、すこぶる読みにくい点は多々ある。

学術書だからか、文章 (とゆうか訳) も固いし、理解できない部分もたくさんあった。何か論理展開おかしくね?なんて思う章もないではないが、それでも枝葉の部分 (全部が枝葉と言えなくもないが) がすこぶる面白くて、大いに楽しむことができた。

性差は乗り越えるものではなく、理解するもの。いや、理解も難しいかもしれない。けど違いを知ることならできる。そのための第一歩に、まず読むべき一冊ではないだろうか。

おわり。

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作品情報

『なぜ理系に進む女性は少ないのか? トップ研究者による15の論争 (Why Aren’t More Women in Science? Top Researchers Debate the Evidence) 』。

2013年西村書店 (2007年原書) 刊。スティーブン・J・セシ / ウェンディ・M・ウィリアムズ編。大隈典子訳。408ページ。

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