獄門島 (横溝正史)【読書】

   

金田一史上最高のミステリ!

獄門島 横溝正史

横溝正史著『獄門島』読了。1971年角川文庫刊 (1947年初出) 。355ページ。

獄門島__江戸三百年を通じて流刑の地とされてきたこの島へ金田一耕助が渡ったのは、復員船の中で死んだ戦友、鬼頭千万太に遺言を託されたためであった。『三人の妹たちが殺される……おれの代わりに獄門島へ行ってくれ』瀬戸内海に浮かぶ小島で網元として君臨する鬼頭家を訪れた金田一は、美しいが、どこか尋常でない三姉妹に会った。だが、その後、遺言通り悪夢のような連続殺人事件が!トリックを象徴する芭蕉の俳句。後世の推理作家に多大な影響を与えたミステリーの金字塔!!

via: Amazon内容紹介

『獄門島』はたしか、ぼくがはじめて読んだ金田一だったのではないかと思う。手元にある文庫も、本作だけ「金田一耕助ファイル」になる前の版だ。

とゆうわけで、そんな思い出深い一冊を、約20年ぶりに再読した。

再読とはいえ、トリックから犯人から、何もかもまるっと忘れ去っていたので、初読のように楽しむことができた。いやーこれは面白い!

金田一はミステリというよりはホラー色が強いけれど、本作はミステリとして読んでも十分楽しめる。金田一史上最高傑作と言っていいだろう。今にして思えば、はじめて読んだ一冊が、最上級だったのね。

島という舞台設定、俳句や舞台劇といった小道具、予想をはるかに上回る真相、殺人の数 (やたらめったら殺されまくらない、という意味で笑。金田一はとにかくひとが死にまくる) ……。すべてのバランスが絶妙で、実によくできている。

本作は金田一耕助の”2戦目”にあたる。デビュー戦の『本陣殺人事件』は戦前の事件だったので、本作が戦後最初の事件ということになる。

戦地から帰ってきた金田一が、戦友だった鬼頭千万太 (きとう・ちまた) の死を伝えに、千万太の故郷、獄門島へと向かうところから、物語は始まる。

このころの金田一は、まだ「探偵業」というよりは、友人に頼まれて人助けをする、あるいは軽く巻き込まれる、といった展開なのが面白い。

ちょうど1作前に読んだ『八つ墓村』とは打って変わって、本作はほぼ、金田一の主観で展開される。金田一が見たもの聞いたことを、読者もそのまま追いかけるカタチで読み進むことになる。

そうやって、金田一の推理、思考過程を追体験できるあたりが、ミステリとしての面白さを生んでいるようなところもあって、とっても読みやすい。

それでも犯人が誰か、というのは (再読にも関わらず) 最後までわからなかった笑。ずっと、ある別の人物を犯人だと疑いながら読み進めていた。著者のミスリードに完全に引っかかったぜ。われながらわかりやすい読者笑!

舞台が島、というのも何気によくできているなあと思った。金田一は寒村が舞台になることが多いけれど、事件の真相は実は別の街にある、なんてことがけっこう多い。

それを調査するために、金田一が物語から一旦消える、て展開もよくあるのだが、本作の金田一は島から一歩も外へ出ない (まあ一時的に監禁状態には置かれるけど) 。

島の中だけで物語が閉じている、というのがミステリとしては何とも潔いようにも思われる。

まあ毎度のことながら核心は過去にあるわけだけど、それを聞き出していく手順も (小説的に) 巧みで、読んでいて説得力がある。作品によっては、それ先に言おうよ、みたいにツッコミたくなるものもあるからね笑。

キャラクタも素晴らしい。清水巡査はちょっと抜けてるけど憎めないし、盟友磯川警部との再会シーンなんて、思わずホロリとさせられる。さらには金田一の淡い恋まで描かれていて、盛りだくさんの内容は読み応え十分だ。

もしもあなたが、金田一をどの作品から読めばいいか迷っているのなら、ぼくは自信を持って本作をオススメする。そんな間違いない一冊。

おわり。

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むかし言葉

金田一はむかし言葉の宝庫。それらの意味を調べるのも楽しい。無知を晒すようで恐縮だが、意味が分からなかった言葉を以下に並べておく。

スフ

獄門島にたった一軒しかない床屋の親方の清公は、横浜に長くいたというだけあって、江戸弁が自慢らしかった。しかし、その江戸弁たるや、金田一耕助の東京弁同様、はなはだ怪しげなもので、多分にスフが入っている。

via: P30

スフとはレーヨン (人口の絹糸) のことで、ステープル・ファイバーを略してスフと呼ばれた。

つまり「スフが入ってる」とは、絹100%ではないという意味で、ここでは純粋な江戸っ子ではない、という意味合いで使っているのだろう。

方丈

方丈【ほうじょう】1丈 (約3m) 四方の部屋の意で,禅宗寺院の住持や長老の居室をさす。

via: コトバンク

金田一の島における宿が禅宗寺 (千光寺) であることから、禅宗にまつわる言葉もたびたび登場する。ちなみに1方丈は4畳半程度の広さ。

愛染かつら (P142)

元々は木のことだが、それをモチーフにした小説および映画があって、共に大流行したらしい。

参考 ▷ 愛染カツラ (木) / 愛染かつら

原作は川口松太郎 (第1回直木賞受賞者!) 。『獄門島』で言及される映画は、野村浩将監督、田中絹代主演による三部作。

道成寺

とんだ道成寺だこと。だけど、これ、あべこべじゃない?鵜飼さん、あの吊り鐘へ入るのは、あんたの役じゃなかったのかい。吊り鐘のなかへかくれるのは、安珍の役ときまったものだわ。清姫が入るなんて手はないわ。

via: P173

和歌山県にある寺院。ここを舞台にした「安珍・清姫伝説」というのが有名で、能や歌舞伎の演目になっている。

参考 ▷ 道成寺 / 安珍・清姫伝説

ついでながら、この吊り鐘のトリックだけは、なぜか鮮明に憶えていた。インパクト強いからなあ。

グルーサム (P176)

単なる英単語 (gruesome) 。「 (死などが) 陰惨な、身の毛がよだつ」という意味。

加賀騒動・黒田騒動 (P237)

江戸時代の三大お家騒動のうちのふたつ (ちなみにもうひとつは、伊達騒動もしくは仙石騒動) 。いずれも歌舞伎の演目になっている。

加賀騒動 / 福岡藩

江戸時代の歴史ってあんまり知らないんだよなあ。いずれ学んでいこう。

鼻毛をよまれる (P241)

鼻毛を読む【はなげをよむ】女が、自分にほれている男を思うように操る。鼻毛を数える。

via: コトバンク

すごい慣用句だなあ笑。由来は何なんだろう?

あとひき上戸

いわゆるあとひき上戸というやつである。飲まねば飲まぬですむのだが、ひとくち杯をなめたが最後もういけない。もう一杯、もう半杯がかさなって、やがてもう一本になり、半本になり、あげくの果てにはずぶずぶの、前後不覚に寝てしまう。

via: P256

と、作中に意味は書いてあるのだが、この表現は知らなかった。

筒井筒 (P261)

『伊勢物語』『大和物語』にある物語のひとつ。作中ではその内容に掛けて、幼なじみの男女が結婚することの比喩として用いられている。

参考 ▷ 筒井筒 – Wikipedia

夜はすべての猫が灰色に見える (P273)

フランスのことわざ (La nuit, tous les chats sont gris.) 。「夜は全てのものが似たように見えて、区別がつかなくなる」という意味。

あるいは「夜には美しい女性と醜い女性の区別はなくなる」、転じて「夜には醜い女性でも十分だ」という意味でも使われるらしい。

もともとは英語のことわざ (All cats are grey in the dark.) という節もある。

参考 ▷ フランス語のことわざI-3 – 北鎌フランス語講座 – ことわざ編

映像化

本作の映像化は多数存在するが、市川崑監督の映画 (1977年) がわりと有名。

犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』に次ぐシリーズ3作目だ。ヒロインである早苗を大原麗子さんが演じている。諸事情により、原作とは犯人を変えているらしい。ぼくも未見。いずれ観たい。

iTunesで観る。▷ 獄門島

小説はこちら。今ならkindle版もある。

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