複製された男 (ジョゼ・サラマーゴ)【読書】
2015/03/11
彼がオリジナルで、自分が複製された男なのか!
ジョゼ・サラマーゴ著『ポルトガル文学叢書17 複製された男 (O Homem Duplicado) 』読了。2012年彩流社 (2002年原著) 刊。阿部孝次訳。299ページ。
孤独な現代人の苦悩とアイデンティティの危機をミステリー仕立てで描いたポルトガルのノーベル賞作家サラマーゴの傑作。米国で映画化。
はじめてのポルトガル文学、どころか、ノーベル文学賞作家の小説を読むのも本作がはじめてだ (川端康成も大江健三郎も読んだことがない) 。
映画 (ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督・ジェイク・ギレンホール主演) もけっこうワケワカラナイ系だったが、原作もかなり難解だった。難解とゆうよりは、難読。ページ数はそれほどではないが、密度が凄まじい。文字の洪水。紙面が文字で埋め尽くされていて、何やら息苦しい笑。
そいや、映画のほうもだいぶ息苦しい映像だったけど、今思うと原作の空気を巧いこと再現してたんだなあ、なんてことも思った。
ストーリー自体は極めてシンプルだ。中学の歴史教師テルトゥリアーノ・マッシモ・アフォンソは、同僚に薦められて観た映画のビデオに、自分そっくりの端役を見つける。
俳優は何者なのか?その正体を暴くべく、他の出演作を探し求めるテルトゥリアーノ。前半はこの孤独な主人公がひたすらビデオを観ているだけだ。何て地味な!
長ったらしくて古めかしい (らしい。外国人の名前だからよくわからんけど) 主人公のフルネームがしつこいほど繰り返されるのに、他の登場人物には名前がなかったり、その言い訳をひたすらしてみたり、ビデオを観ながら頭の中で考えていることをイチイチ書いてみたり、明らかに物語とは関係なさそうなことまで事細かに描写したり、というのがまさにこの文章のような調子で、改行もなければ、ときには句読点すらなく、途切れることなく延々と続いていく。
会話文に「」はかろうじてあるものの (原文にはないらしい) 、やはり改行はされず、どちらが喋っているのか途中からわからなくなる。いや、どちらが喋っているかはあまり重要ではないのかもしれない。ときに自分の頭の中にある”良識”と対話してみたり、どの語り手がどちらなのか、という境界が極めて曖昧だ。それにこの小説自体、主人公だと思っていた人物が実は”複製”かもしれなかったり、あるいは途中から視点が入れ替わったりするなどの仕掛けが施されている。
オチも (映画よりは) 原作のほうがよかった。とゆうか、よりナットク感のある終わりかただった。思わずニヤリ。
とはいえ、映画を先に観ていなかったら、最後まで読み切れたかどうか怪しい笑。あらすじがアタマに入ってたし、視覚的にもだいぶ助けられた。
慣れるまではめちゃくちゃ読みにくくて難儀するが、しばらく進むと没入感からページを繰る手が止まらなくなる。電車で読むこともあったが、何度か乗り過ごしそうになるほど入り込んでしまった。圧倒的な文字数で小説世界が構築されていくさまはまさに文学!独特の感覚が実に心地よかった。
おわり。
映画の感想はこちら。▷ 複製された男 (2013)【映画】
ジョゼ・サラマーゴの小説は、どれも本作のような文体らしい。続けざまに読むのはさすがにしんどいが、他にもいくつか気になる作品がある。
『あらゆる名前』は本作と世界観が似てるみたいだし、『白の闇』も面白そう。こちらは『ブラインドネス』というタイトルで映画化もされているそうだ (ジュリアン・ムーア主演。伊勢谷友介さんや木村佳乃さんも出ている) 。いずれ読んでみたい。
本エントリで紹介した、『複製された男』はこちら。
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