アメリカン・スナイパー (2014)【映画】英雄という名の合わせ鏡

   

米軍史上最多、160人を射殺した、ひとりの優しい父親。

アメリカンスナイパー クリントイーストウッド

『アメリカン・スナイパー (American Sniper) 』の試写会に行ってきた。

アメリカ軍で最も強い狙撃手と呼ばれた、クリス・カイルの自叙伝を実写化したドラマ。アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズ所属のスナイパーであった彼が、イラク戦争で数々の戦果を挙げながらも心に傷を負っていくさまを見つめる。

via: シネマトゥデイ

つー内容で、クリント・イーストウッド監督&ブラッドリー・クーパー主演。アカデミー賞にも作品賞主演男優賞はじめ6部門にノミネートされている。

てのはあんまり関係ないにしても、ちょっと期待しすぎちゃったかな。イーストウッドの前作『ジャージー・ボーイズ』があまりに素晴らしすぎたもんで。

イーストウッドの映画っていつも観る前はあんまり面白くなさそうなんだけど、今回は予告が面白そうすぎた笑。から逆にイヤな予感してたんだけど、不幸にもその予感は的中してしまった。

まあ、こーゆう映画はいちゃもん付けづらいよなあ笑 (だからあんまり好きくない、てのもある。天の邪鬼笑。批判しづらいとか何かズルい) 。実話でしかも時間もそれほど経ってなくて、ましてや”テロとの戦い”とやらも未だ現在進行形なわけだしね。

戦争を美化してるだとかいや反戦映画だとかゆー論争はけっこうどーでもいいんだけど、それ以前に何だか物語も映像もまるで新鮮味がなくて、何でこんなに評価 (とゆうか議論?) されてんだかさっぱりわからんかった。正直言って退屈だった。

戦争は兵士の心までも蝕んでいくみたいなテーマはオリヴァー・ストーンがヴェトナム戦争を題材にして散々描いてきてるし、イーストウッドだって『父親たちの星条旗』で取り組んだんじゃなかったっけ? (正直内容あんまり憶えてない笑。また見直さないと)

それを現代のイラク戦争 (及び今も続く”テロとの戦い”) に置き換えて描くってのは一定の社会的意義があんのかもしれんけど、何だか今さら感が凄まじい。

それに主人公のカイル (Bクーパー) ってひとのことをこの映画が出てくるまでまったく知らなかった身 (多くの日本人がそーだと思う) としては、何だかまるでピンとこない。これ戦争映画ってゆうよりは、このカイルってひとの伝記映画なんだよね。

つかさ、そもそも”兵士の人間らしさが失われるから”戦争はいけないのか?そーじゃないように思うんだが。何だか立ち位置が西洋 (残念ながら日本も含まれる) に寄り添いすぎてて腹立った。

あーでもすげーなあと思ったのは、カイルの姿を描くことで、アメリカ側とイラク側の両方を描いてしまっているところ。意図してんだかどーか知らんが、結局のところこの両者って似た者同士なんだなってことがよくわかる。

たとえば、”虐殺者”と呼ばれているイラク側の幹部が、米軍と接触したイラク市民の子供をドリルで惨殺するシーンがある。

思わず目を背けたくなるほど凄惨極まりないし、カイルらが劇中でイラク側のテロリストたちを“蛮族”と呼称するのにも一定の説得力がある、ように映る。

が、そのカイル自身が一方では、テロに加担するイラク市民 (の親子) を躊躇なく射殺する。これ、やってることは全く同じだよね。

それに”虐殺者”が裏切り者を問いつめる姿勢は、『ゼロ・ダーク・サーティ』で描かれたような米軍の拷問なんかも想起させる (本作では描かれてないけど) 。

あるいはシールズの訓練シーン。『フルメタル・ジャケット』を彷彿とさせる過酷な「しごき」によって心も肉体も鍛えられて殺人マシーンと化していくわけだけど、これもイスラム原理主義の思想教育と何ら変わらんよね。自爆こそさせないものの、愛国心を養って死地に送り込むって意味では大差ないように思う。

カイルは現役のころから仲間に“伝説野郎”なんて言われて弄られてるけど、イラク側のスナイパーも元五輪選手で半ば伝説みたいになっている。劇中でイラクのスナイパーの内面が描かれることはないけれど、カイルひとりの家族や人生を丁寧に描くことで、自然と“向こう側”にも思いを致すような構図になっている。

イーストウッドは『父親たち〜』の対として『硫黄島からの手紙』を撮ったけど、今回はイラク側の視点はほとんど描いていなくて、それはちょっとフェアじゃないなあて最初は思った。

けど実際にはひとりの英雄的な狙撃手 (とその好敵手との関係) を通して、イラク側もちゃんと描いてたんだなあて思うと、何だすげーじゃんて素直に思えた。

カイルは両者を映す合わせ鏡なのだ。そー考えるとカイルこそ「(イラク) 戦争とは何か?」を表現するのにピッタリの、実に象徴的な存在なのかもなあ、なんてことも思ったりした。

スナイパーを描いた映画って単純に娯楽として好きなんだけど、そのスゴさ面白さがイマイチ表現しきれてなかったのは何とも残念だった。

武器を拾った子どもに銃を向けながら「捨てろ」と願うシーンくらいかなあ良かったのは。一晩中狙撃に集中しててトイレにも立たずにその場で漏らす、てあたりも良かったけど、もうちょっとジリジリする緊張感と我慢比べ、みたいなのを期待してたから全体的にだいぶ拍子抜けだった。

これなら『ハートロッカー』にも出てくる狙撃のいち情景のほうがずっと真に迫っているように思う。つか本作観にいく直前に予習 (復習?) も兼ねて『ハートロッカー』を観ちゃったのが、個人的にはだいぶ失敗だったなあと思った笑。再鑑賞なのに本作よりはるかにドキドキできたからね。

やっぱりこれも実話ってせいなんだけど、戦争映画で主人公がゼッタイに死なないってわかっちゃってるのは著しく緊張感を削ぐよね。仲間の死、みたいなのは描かれるけど、その連中の内面は大して描かれないからまるで感情移入できないし。良くも悪くもカイルに寄り添いすぎなんだよなあ。

兵士と家族、みたいなテーマで観ても今ひとつピンとこない。奥さんは完全に脇役だし。つかさ、戦場のど真ん中でドンパチやってる最中に奥さんに衛星電話する、てシーンが何度かあったけど、あれホントなの?

事実かどーかはこの際どーでもいいんだけど (笑) 、あまりに「ホントっぽくなく」て興ざめだった。何だかイーストウッドは余計なことをしないのが良さなのに、本作ではいろいろ過剰だったように思う。BGMの使いかたとか、砂嵐のCGとか。

どれもこれもコテコテの古くさい演出で、『ジャージー・ボーイズ』ではそれが良さだったのに本作では逆効果に感じてしまった、てのはどこにその理由があるのかちょっと興味深い。やっぱり描いてる”時代”がポイントなのかなあ。もっとクラシカルな題材のほうがこのひとには合うのかもしれない。

カイルの精神が疲弊していく描写は大して面白くもなかったんだけど、戦場から帰ってきたら血圧が異常に高くなってたってとか、車の修理工が操る電動ドライバーの音に過剰に反応しちゃう、とかのあたりは妙にリアリティがあって良かった。あーゆう何気ない情景で変化を描くってやり方は好き。

ブラッドリー・クーパーは見た目超絶ハンサムなのに内面クソ野郎、て役がちょーハマるイケメンで、そのギャップが最大の魅力だと思っている。が、本作ではそんな彼の魅力が全然発揮されていない!

女子供でも躊躇なく射殺する非情な人間ではあるものの、普通に苦悩する精神も持ち合わせていてサイテーな男ってわけでもない。それに肉体改造で筋肉モリモリになっちゃってて、いつものスマートハンサムぶりは見る陰もないって何それ新境地のつもりかよいかにも中途半端!

やっぱこのひとは軽い雰囲気の劇のが似合うんだなってことを再認識した。つかつか、エンドロールで実際のカイル夫妻の写真が出てくるんだけど、映画とちょーソックリで何だよ単なるモノマネ映画だったのかよとも思った。

これでオスカー獲るようならガッカリだなあ。太ったり痩せたり似てたりとかで授賞するのはもうそろそろやめにしよーよ (まあ今年の主演男優は5人中4人がソックリさん映画なんだけど笑) 。

つーわけで、監督も主演もミスキャスト甚だしい映画で何がしたいのかよくわからんかった。まあぼくは元々いかなる理由があっても戦争はダメゼッタイ!て立場だから、今さらその是非を問う!みたいに宣言されても「はぁ?」てなっちゃうのかもしれない。

国民の命も守るためには戦争も辞さない!みたいなスタンスのひとが観ると、あるいは価値観を揺さぶられちゃって大いに考えさせられちゃうのかもなあ、なんてことも思ったりした。

おわり。

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作品情報

『アメリカン・スナイパー (American Sniper) 』。2014年アメリカ。クリント・イーストウッド監督。132分。

主演 (兼製作) はブラッドリー・クーパー。共演にシエナ・ミラーほか。2月21日公開。

あらすじ

イラク戦争に出征した、アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズの隊員クリス・カイル (ブラッドリー・クーパー) 。スナイパーである彼は、「誰一人残さない」というネイビーシールズのモットーに従うようにして仲間たちを徹底的に援護する。人並み外れた狙撃の精度からレジェンドと称されるが、その一方で反乱軍に賞金を懸けられてしまう。故郷に残した家族を思いながら、スコープをのぞき、引き金を引き、敵の命を奪っていくクリス。4回にわたってイラクに送られた彼は、心に深い傷を負ってしまう。

via: シネマトゥデイ

予告編

映画『アメリカン・スナイパー』予告編 – YouTube

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