あん (2015)【映画】どら焼きの中のライフイズビューティフル

   

やり残したことは、ありませんか?

あん 河瀬直美 樹木希林

『あん』の試写会に行ってきました。

元ハンセン病患者の老女が尊厳を失わず生きようとする姿を丁寧に紡ぐ人間ドラマ。樹木希林演じるおいしい粒あんを作る謎多き女性と、どら焼き店店主や店を訪れる女子中学生の人間模様が描かれる。

via: シネマトゥデイ

てな内容で、河瀬直美監督&樹木希林主演。5月30日公開。

感想!

無知を恥じる

完成披露試写だったので、キャスト・スタッフによる舞台挨拶がありました。その中で主演の樹木希林さんが「この歳まで生きてきて、らい (ハンセン病) 患者について何も知らなかったことを恥じた」と言っておられました。

ぼくは希林さんの半分も生きていないですが、本作を観てまったくその通りだなと思いました。差別は無理解からはじまるし、知らないことは恥なのだということを、今さらながらに思い知らされました。

劇中、どら焼き店のオーナー (浅田美代子) が、実に差別的な発言をするシーンがあります。ヒドいことを言うもんだと観ていておぞましいのですが、翻って自分自身はどうかと問われれば、途端に自信がなくなってしまいます。

ハンセン病という言葉は知っていますし、酷い差別があった (ある) ことも知っています。けれども具体的な症状や差別の実態となると、ほとんど何も知らないのです。思いつくのは、手がくっついたり鼻が取れたりといった痛ましい映像ばかり。これって、口にこそ出さないだけで、心のうちはあのオーナーと同じだよなあと反省しました。

言葉にならない声

この映画は、徳江さん (樹木希林) と千太郎 (永瀬正敏) とワカナ (内田伽羅) という、世代の異なる3人の表情と、四季折々の草花、そしてどら焼きのあん作りを、ただただ撮っています。

徹底的に描写のみで進んでいくさまは、何かを「語る」ことを拒否しているようにさえ感じるほどです。

原作者のドリアン助川さんは「このおはなしでは言葉にならない声を表現したかった」と言っておられました。その感性が、映像で見事に表現されています。

こーゆう映画を作られてしまうと、感想を「書く」側としては少々辛いです笑。語れば語るほど野暮になる (けど負けずに書いてみます) 。

狭さが生む閉塞感

※ややネタバレ含みます。

わりと横長で広い画面で (サイズとか専門的なことはよくわからんです) 、色調もわりあい明るいのに、表情のアップが多いせいか全体的に「狭く」感じる映画でした。

舞台となるどら焼き店「どら春」の厨房もとても「狭い」。徳江さんと千太郎のふたりが同時に入ると、すれ違うのもやっとです。

日本的な草木の風景は美しいですが、太陽光を遮っているようにも見えて、ときに鬱陶しく感じます。映像に何やら閉塞感があるのです。

見えているのに、出ていけないような、不自由な感覚。劇中では鳥かごが象徴的に描かれていますが、画面から伝わってくる閉塞感も、ハンセン病患者さんたちが受けてきた不当な扱いと重なるように感じました。

それが最後のほうでは、徳江さんが草原のような場所へ出ていったり、千太郎も「どら春」を辞めて「外」でどら焼きを売っていたりと、それまでの息苦しさが抜けて、パッと開ける晴れやかな解放感がありました。

樹木希林が醸し出すペーソス

本作は「ハンセン病」というわりと重いテーマを扱っていながら、どこか明るい雰囲気も纏っています。それは四季の美しい映像もさることながら、やはり主演の樹木希林さんが醸し出す独特の空気感によるところが大きいです。

希林さん特有の所作や表情、語り口や「間」といったものが、絶妙なおかしみを含んでいて思わず笑みがこぼれてしまいます。演技なのか素なのか、徳江さんなのか希林さんなのか……。

この「笑い」と、「ハンセン病」というペーソスの配分が実に絶妙で、泣いたり笑ったりと激しく感情が揺さぶられます。ときにはこの二つが同時にやってきたりもして、泣いてるんだか笑ってるんだかわからない不思議な気持ちにさせられます。

コメディ色はそれほど強くないのに、どこかチャップリンや『ライフ・イズ・ビューティフル』といった作品が思い出されました。そういえばそれらの映画も、いわれのない差別や社会的弱者を扱った作品でしたね。

差別に抗う「知」

どら春の雇われ店長・千太郎を演じた永瀬正敏さんも、樹木さんに負けず劣らず素晴らしかったです。

オーナーの圧力で徳江さんを守れなかったのに、訪ねた全生園で「楽しかった。ありがとう」と言われて、涙を堪えながらおしるこを食べるシーンは、胸が締めつけられました。無力感がイヤになります。

自分だったら社会の圧力に抗えるだろうかとちょっと考えてみましたが、それ以前に何をしたらいいのかわからない、てことに気づいて愕然としました。

繰り返しになりますが、本当に「知る」ことくらいしかできないし思いつかない。

ひとりの人間はあまりに無力ですが、皆が広く知ることで、差別に抗う土壌が育まれるのかなと、そんなことも思ったりしました。

まず、知ることから。この映画の「意義」って、そのあたりにあるのかもしれません。

あん作りというシンプルな営み

どら焼きの「あん」を作るっていう題材も、本作のテーマとこの上なくマッチしているよーに感じました。劇中でもしつこいくらいにあん作りの様子が淡々と描かれます。このシーンがとても良い!

小豆の「声」を聞き (「湯気の匂いが変わる」てのがとても良かったです) 、時間をかけて丁寧に練り上げていく。シンプルだけど恐ろしく手間の掛かる作業です。人間の営みとして、この上なく全うな仕事だよなあと思うわけです。それに何より、甘いものはひとを幸せにします。

その「あん」が皮に包まれて隠れている、てのも何だか良いんですよね。見えないくせに、一番大事。どら焼きの肝です。

うん、何だろ、全然うまく言えないんですけど、とにかく良かったです。どら焼き食べたい (結局そこか笑) 。

さいごに

「語る」ことがとても難しい作品で、やや散文的な感想になってしまいました。

公開まではまだ日がありますが、桜がとってもキレイな映画だったので、個人的にはその桜がギリギリ咲いている時期に観ることができてホントにラッキーでした。

本作は良いとか悪いとか、面白いとか面白くないとか、そーゆうありきたりな評価軸には乗ってこない、乗せてはいけない作品のようにも感じます。

「考えさせられた」などという表現を安易に使いたくはないですが、それを通り越して「考えないといけない」とさえ思いました。

無知は恥であり罪。いろんなひとに観てほしい一本。

おわり。

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オマケ

原作はドリアン助川さんの同名小説。言葉にならないものの声、てのは映像でこそだなあと思ったわけですが、それが果たして文章ではどのように表現されているのか。ちょっと興味深いです。公開前までには読んでおこうかなあ。

作品情報

『あん』。2015年日本 / フランス / ドイツ。河瀬直美監督。113分。

主演は樹木希林。共演に永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、水野美紀、浅田美代子ほか。5月30日公開。

あらすじ

刑務所から出所したのち、どら焼き屋「どら春」の雇われ店長となった千太郎 (永瀬正敏) の店に、徳江 (樹木希林) という女性がやって来る。その店で働くことを強く希望した徳江を千太郎は採用。徳江が作る粒あんが評判となり、店は大繁盛。そんな中徳江は、つぶれたどら焼きをもらいに来ていた女子中学生のワカナ (内田伽羅) と親しくなる。ところがある日、かつて徳江がハンセン病を患っていたことが近所に知れ渡り……。

via: シネマトゥデイ

予告編

映画『あん』予告編 – YouTube

 -2010年代の映画 , ,

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