あの日の声を探して (2014)【映画】人間の「弱さ」をあぶり出す「戦争」

   

泣きながら、生きる。

あの日の声を探して

『あの日の声を探して (The Search) 』の試写会に行ってきました。

『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウス監督が『山河遥かなり』にアイデアを得て、現代のチェチェンを舞台に声を失った少年とEU職員の女性の奔走を描く感動ドラマ。ロシアの侵攻が原因で両親がこの世を去り声まで失ったチェチェン人少年が、EU職員の女性と出会い、生き別れた姉と弟を捜すべく必死に生きる姿を映し出す。主演は、『アーティスト』のヒロインを務めたベレニス・ベジョ。『キッズ・オールライト』などのアネット・ベニングが共演する。凄惨なチェチェンの様子に胸を痛めると共に、少年の純粋な姿が涙を誘う。

via: シネマトゥデイ

てな内容で、原案はフレッド・ジンネマン監督による1948年製作の映画『山河遥かなり (The Search) 』。4月24日公開。

感想!

どこにでもある戦争

1999年に勃発した第2次チェチェン紛争を題材にしていますが、描いているものはもっと普遍的です。およそ「戦争」というものが等しく有している怖さや愚かしさを、一歩引いた視点で淡々と描いています。

今も世界のどこかで起こっている、どこにでもある「戦争」を描いているようなところがあって、あくまで事実「に基づいた」フィクションでありながら、ときにドキュメンタリーなのではないかと錯覚するほどです。これが現実なのかと思うと、イヤになります。

一方で、主人公の少年ハジ (アブドゥル・カリム・マムツィエフ) が声を失っていることもあって、戦争映画とは思えないほど静かですが、それがよりいっそうの緊張感を生んでもいます。セリフのほとんどない中で、戦時下の情景のみが淡々と切り取られていきます。

良い反戦映画

ストーリーもあるのかないのかわからないほどに流れが緩やかで、あまり多くを語ろうとしていません。芝居がかってもいない。主人公が誰なのかすらも明確ではなく、どのキャラクタにも寄り添っていません。良い反戦映画だなと思いました。

戦争映画って、誰かに寄り添ってしまうと「歪む」ように思います。最近だと『アメリカン・スナイパー』がその典型です。反戦を謳っていても、寄り添うことで英雄のように映ってしまう。何やら鏡で反転しているような恐ろしさがあります。

本作のキャラクタたちは、もっとずっと「弱い」です。声を失った少年、難民となった少女、戦地の状況を伝えながらも、何も変えられないことに苦悩する女性、わけもわからず戦場に駆り出される若き兵士、などなど。みな惑い、無力感に苛まれているという状況は、とても人間的です。

キューブリック的

それぞれのキャラクタたちが交互に描かれるさまは、群像劇のようでもあります。それぞれの物語が、交錯しそうでなかなかしない、というもどかしさが堪りません。それに何より、群像劇っていろんなストーリーをいっぺんに観ることができるから好きです。

特に気になったのが、ロシア人兵士コーリャ (マクシム・エメリヤノフ) の物語。つかロシアって、未成年が喫煙 (ひょっとして、麻薬?) してるってだけであんなに重罪なの?てことにまず驚きました。

わけもわからず戦地に連れて行かれて、だんだんとおかしくなっていくコーリャ。スタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』を彷彿とさせます。ちょっと突き放すように戦争を描いているあたりも、実にキューブリック的でした。実際に戦っているのは彼らのような若者たちなのかと思うと、そのあまりのバカバカしさにゾッとします。

戦争はひとをおかしくする。異常な環境下で個人の精神や集団の統制を保てるほど、ひとは強くない。そしていっときの狂気によって、もっと弱いひとたちの生命や暮らしを蹂躙していく。そういった戦争という仕組みが普遍的に持っている狂気や愚かさを、本作は誰に寄り添うことなく、ただただ描いています。一歩引くことで、戦争の怖さが返って鮮明になっているような印象を受けます。

無関心の恥と罪

チェチェン紛争を舞台としているものの、その背景や経過についての詳しい説明はありません。戦争に巻き込まれた多くの市民にとって、そんな政治的なはなしはどーでもいいことです。説明されないことで、彼らと目線が近づくような感覚があります。

恥ずかしながらぼくは、チェチェン紛争についてほとんど何も知りませんでした。つい数年前 (終結したのは2009年) までこんなことが行われていたのかと、ちょっと衝撃を受けました。

主人公のキャロル (ベレニス・ベジョ) が劇中で、紛争に対する世界の無関心をたびたび非難していますが、自分に言われているようでバツが悪かったです。無関心は恥であり罪だなと、改めて思いました (つかこれ、つい最近『あん』を観たときにもまったくおんなじことを思ったな……) 。

コーリャは救えなかったハジかもしれない

※ネタバレ含みます

本作は全体的に重く暗いテーマですが、クライマックスは不思議と清々しく、爽やかな感動を得ることができます。

まあ、その後のラストカット (とオープニング) でまた困惑させられて、わりと突き落とされるようなエンディングが待っているのですが笑……。

そのコーリャのエピソードに限らず、ハジだってキャロルと一緒に暮らしたほうが幸せだったんじゃないかとか、それ以前にハジは盗みを働いていたりして、決してキレイごとだけじゃなかったりと、わりと救いがないようにも感じます。状況はこれといって好転していないですし、彼らはこれからもきっと過酷な運命と対峙しなければならないでしょう。

それでもやはり、ひとりの少年の心を救えたというのは大いなる希望です。

キャロルを喜ばせるためとはいえ、窃盗という罪を犯してしまうほどに荒んでしまったハジの心。もしそれを救うことができなかったら、ハジは将来、コーリャのようになってしまうかもしれません。

なーんてことを考えたら、その映画としての構造に改めて舌を巻きました。オープニングとエンディングの繋がりといい、ホントによくできてるなあ!

さいごに

残念ながらというべきか、昨今では日本でも戦争というものが、だんだんと身近なものになってきてしまっています。決して他所の国のはなしばかりではないのかもしれない。そんなふうに感じるせいか、戦争映画の感想を書くのに毎回難儀します。映画として純粋に楽しめねーじゃんかくそう笑。

どんな理由でも戦争はいかん、てのはぼくの中でわりとシンプルなことなんですが、それを伝えるのが (映画に限らず) だんだん難しくなってきている。そんな時代の空気そのものが恐ろしくもあります。

本作の原題は”The Search”。邦題では少年が失ってしまった「声」を探しているような印象を受けますが、原題の「探す」にはもっと多面的な意味が込められているようにも感じます。

生きる希望と、争いを避ける道を探るための一本。

おわり。

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オマケ

山河遥かなり

原案は1948年製作の映画『山河遥かなり』。フレッド・ジンネマン監督の作品で、ナチスが題材なんだとか。未見なので気になっています。

作品情報

『あの日の声を探して (The Search) 』。2014年フランス / グルジア。ミシェル・アザナヴィシウス監督。135分。

主演はベレニス・ベジョ。共演にアネット・ベニング、マクシム・エメリヤノフ、アブドゥル・カリム・マムツィエフ、ズクラ・ドゥイシュビリほか。4月24日公開。

あらすじ

1999年のチェチェン。ロシアの侵攻によって両親を殺害された9歳の少年ハジ (アブドゥル・カリム・マムツィエフ) は声を失ってしまう。たった一人でさまよっていたところを、EU職員のキャロル (ベレニス・ベジョ) に保護されたハジ。そんなハジには生き別れた姉と弟がいて……。

via: シネマトゥデイ

予告編

『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウス監督とベレニス・ベジョが再タッグ!映画『あの日の声を探して』予告編 – YouTube

 -2010年代の映画 , ,

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