博士の愛した数式 (小川洋子)【読書】

      2013/05/20

これでもド理系の @cota1Q82 です。

理系の人間でも僕みたいに、小説読むの大好き、て人は結構いるんじゃないかと思います。そして「数学小説」というジャンルが、数は極々わずかしかないものの世の中には存在します。

理系でも小説が好きな人間がいるのだから、文系でも数学が好き、て人がたくさんいるのもまた然り。

本書『博士の愛した数式』が大ベストセラーとなったのが、そのことの何よりの証明といえるのではないでしょうか。今更ながらに読んでみました。

登場人物が素敵

あらすじなどは、Wikipediaを参照していただくとして。

博士の愛した数式 – Wikipedia

映画は前に観たことがあって、大まかな設定とかは憶えていましたが、お話は完全に忘れていました。なので新鮮な気持ちで読むことができました。映画のキャストは憶えていたので、人物のイメージなんかは描きやすかったです。

文庫版では数学者の藤原正彦さんが解説を書かれています。そこにこの小説を端的に表す一文がありました。

老数学者、家政婦の「私」とその十歳の息子の三点が、数学と阪神タイガースという二色の紐で結ばれ三角形をなしている。独創的な構図である。しかも老数学者の記憶は正確に八十分しか持続せず、備忘録がわりのメモ用紙が身体中に貼られている。数学者も顔負けの想像力である。

ほとんどこの発想の勝利と言うか、徹頭徹尾、この構図だけで引っ張ってくれる面白さがあります。

本作のように、日常を描くというか、核となるお話がない小説は苦手なのですが、本作は登場人物のキャラクターがしっかりしているので十分楽しめました。

著者の作品を読むのは初めてでしたが、全体的にとても柔らかい、優しい文章を書く作家さんだなあと思いました。読みやすかったです。

数学と野球

上述した引用にもあるように、老数学者の「博士」と小学生の「ルート」、ほとんど接点のなさそうなこの二人を繋げるのが、阪神タイガースと江夏豊です。

阪神についての描写は試合内容からペナントレースまでかなり詳細に、そして頻繁に登場します。90年代前半の阪神が主役の野球小説として読めんでも十分楽しめるんかないか、というほど。

これは数学好きで野球好きの僕のために書かれた小説なんじゃないか、と読んでて思ってしまうほどでした。おんなじように思った人、結構いるはず。

数学小説は良い教師

数学小説と言えば最近では『数学ガール』が有名です。僕も大好きなシリーズ。

その『数学ガール』みたいな感じを期待してしまうと、数学パートがちょっと物足りないかなと思ってしまいます。

『数学ガール』が「小説仕立ての数学書」だとすると、本作はあくまで「数学をテーマとした小説」。

けどオイラーの式やフェルマーの最終定理など、扱ってる数学やそれに対する登場人物の考え方なんかは微妙に似通ってたりして面白いです。

本作を読んでて強く感じたのは、数学 (じゃなくてもいいけど何か学問) を好きになるかどうかって、良い教師に出会えるかどうかだなあ、てこと。

本作の「私」や「ルート」にとっての「博士」がまさにその「良い教師」だし、『数学ガール』だと「テトラちゃん」にとっての「僕」もまた然り。

「良い教師」の彼らに共通する部分、て何なのかな、なんてことを考えながら読んでたんですが、とにかく数学が好き、てことに尽きると思います。

数学ができるできないってのはあんまり関係ないように思います。まあ教えるんだからある程度はできないとダメですけどね。例えば大学の先生てその道のエキスパートですけど、「良い教師」てのは少ないような気がします。周り見ててそう思うこと多いです。

相性とかもあると思うんですが、教師と生徒の間に愛情だったり友情だったり、プラスアルファな感情が芽生えると一層良い関係になるのかなあ、とも思いました。

本作ではそーゆう学問を通じた、好きとはちょっと違うビミョーな感情、みたいなのが良い感じに表現されてて、その辺りが本作の読みどころかなあ、なんて思ったりもしました。

「良い教師」に出会うとか運じゃん、て思うかもしれませんが、何も「人」に限った話ではないと僕は思います。「本」が教師になってくれることだってあると思うので。

きっかけを作ってくれるという意味では、本作はまさにこの、数学の「良い教師」たりうる小説ではないでしょうか。

 -小説

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