あん (ドリアン助川)【読書】緩やかな暗部

   

誰にも生まれてきた意味がある。

あん ドリアン助川

ドリアン助川著『あん』読了。2013年ポプラ社 (2015年ポプラ文庫) 刊。239ページ。

線路沿いから一本路地を抜けたところにある小さなどら焼き店。千太郎が日がな一日鉄板に向かう店先に、バイトの求人をみてやってきたのは70歳を過ぎた手の不自由な女性・吉井徳江だった。徳江のつくる「あん」の旨さに舌をまく千太郎は、彼女を雇い、店は繁盛しはじめるのだが……。偏見のなかに人生を閉じ込められた徳江、生きる気力を失いかけていた千太郎、ふたりはそれぞれに新しい人生に向かって歩き始める__。生命の不思議な美しさに息をのむラストシーン、いつまでも胸を去らない魂の物語。

via: Amazon内容紹介

てな内容で、5月30日公開の河瀬直美監督 & 樹木希林さん主演『あん』の原作本です。

その映画を試写会で観て、いたく感動したのでこの原作本も読んでみました。

本書を読んで、映画はかなり原作に忠実だったんだな、てことが改めてよくわかりました。原作が持っている「善さ」や雰囲気を損なわないどころか、実に巧く表現していたように思います。ときには原作を凌ぐほどの描写もあったりして、見事に両立していました。

映画は敢えて多くを語っていないようなところもあるので、両方観ても (読んでも) 決して損はない、とゆうかむしろ映画も原作も両方観る (読む) べき!と思えるほど素晴らしいです。

本作のひとつのテーマは「ハンセン病」ですが、映画ではこの病気の歴史や現状について、敢えて「説明」していないようなところがあります。

それが逆にこの病気 (とゆうか、周囲が生み出した差別) の怖さを浮かび上がらせていて、だからこそ「もっと知らなければ」という思いが自然と芽生えてきたのですが、ぼくが無知なせいでよくわからない部分も多く残りました。

で、「知る」ための手始めとして原作を読んでみたわけですが、映画で説明不足だった箇所が見事に補完されていて、やっぱり読んでよかったなあと素直に思えました。

それとこの原作には、ぼくたちが「ハンセン病患者」と聞いて心に浮かぶ感情が、主人公千太郎を通して絶妙な距離感で描かれています。映画はこの辺りややキレイすぎるかもな、と改めて感じました。

差別はいかん!なんて言いながらも実際は何となく怖かったり、最初はちょっと引いてしまったり。あるいは病気のことを知ろうとしてネットで検索はしてみるけれど、怖い画像はできるだけ見たくない、といった生々しい感情が、実に巧みに描かれていてます。ああぼくもそうだよなあと思うと、ちょっと怖かったです。

差別とまでは言えないけれど、だれもが抱く緩やかな暗部。こーゆうのも結局のところ、無知によるところが大きいのかもしれません。いや、いくら「知った」ところで、元患者さんたちと実際に相対する状況になったら、知識なんてこれっぽっちも役に立たないような気もします。

でもこの小説 (あるいは映画でも) を読むことで、知らなかった世界に「触れる」ということには大きな意味があるようにも思います。

本作に限らず、物語の意義や役割ってこのあたりになるのかなと、そんなことも思ったりしました。

ちなみにこの物語が持っている「善さ」については映画の感想に書いたので、そちらも併せて読んでいただければと思います笑。

参考 ▷ あん (2015)【映画】どら焼きの中のライフイズビューティフル

スルスルと読める平易な文章でスッと頭に入ってきて、ちょっと遅れていろんな感情がじわじわと胸に広がっていく。そんな読後感がとても心地よかったです。

自分の内側にある感情が描かれているのに、何やら世界観が広がっていくような感覚になるのもちょっと不思議でした。はじめてなのにどこか懐かしい、てのは、美味しいどら焼きの条件、みたいなところもあります。

どら焼き作りがこの物語と妙にマッチしているのは、このあたりとも関係があるのかな、なんてことも思ったり。

映画を観る前の予習もしくは観た後の復習に (あるいは映画とは関係なしに笑) ぜひ一読を。

おわり。

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ぼくは (図書館で借りた) 単行本で読みましたが、今なら文庫版もあるみたいです。

 -小説

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