銀行強盗は計画的に【映画】狼たちの午後 (1975)

      2015/07/03

圧倒的な人物造形。爆発寸前のニューヨークを繊細な描写で綴る、シドニー・ルメットの傑作。

狼たちの午後

『狼たちの午後 (Dog Day Afternoon)』を観ました (ずっと昔にも一度観たんですが、例によって内容はすっかり忘れておりました笑) 。

先日紹介した『ヒート』[感想] は、アル・パチーノが強盗を追いかける刑事役でしたが、本作では逆に銀行強盗を演じています。といっても作られたのは『ヒート』よりも20年くらい前なんですけど。アル・パチーノ、とっても若い。

原題の”Dog Day”とは「盛夏」「うだるように暑い夏」という意味だそうです。実際、その暑苦しさが臨場感たっぷりに表現されている映画です。登場人物はみんな汗だく、ほとんど肌着みたいになってるシーンもありますし、エアコンが故障して熱中症みたいになる人質も出てきたりと、さながら画面から熱風が吹きつけてくるように暑いです。観ているこっちまでじんわりと汗をかいてしまいます。銀行を襲うのは涼しい日のがよさそうですね笑。

冬に観るとちょっとその雰囲気が伝わりにくいかもしれないので、ぜひ夏に観ましょう。今の季節なんてピッタリです。暑いほうが、より映画の空気感に浸れるように思います。

本作は実話を元にしたおはなしだそうです (ストーリーの詳細を知りたいかたは [Wikipedia] あたりを参照ください) 。それなのに「ホントかよ」と思えるほどに強盗計画がずさんだったり、個々のキャラクタも立ちまくっていて面白いです。けっこう笑えるシーンも多くて、でもやっぱりサスペンスで、何というか緩急のつけかたが抜群です。

真っ昼間に3人組が銀行を襲撃するところからはじまるのですが、いきなりひとり怖じ気づいて、やっぱりやめる、みたいな感じで帰ってしまいます。このときの間合いとかサイコーにおかしいです。伊坂幸太郎さんの小説に出てくる、ちょっぴりマヌケなギャングみたいです。

せっかく押し入ったのに金庫にはほとんどお金が入っていなくて、初っ端から計画が破綻してしまいます。早々に警察に包囲され、あとはひたすら篭城です。人質になる支店長や出納係 (?) の女性 (水色のカーディガンを羽織ったおばちゃんです。女性行員のリーダー的存在。彼女もいいキャラクタです) に、「ちゃんと計画をたてたのか」と怒られたりしています。

ほぼ全編立てこもっているだけなんですが、ドラマや小ネタがあってまったく飽きません。とにかく緩急がうまい。

みなどこか他人事で、銀行強盗の現場とは思えないほどのんびりしているさまはさながらコメディのようなんですが、銃声が一発とどろくとさっと緊張感が走ってサスペンスに切り替わります。ひとつの映画の中でここまで鮮やかに色を切り替えられるのも、かなりスゴイことだと思います。

アル・パチーノはやっぱり悪人顔ですね笑。狂気もほどよいです。熱くなりすぎて自分自身をコントロールできていない感じが絶妙です。”彼氏”の存在だとか、まったくのフィクションでここまでやったら盛り過ぎだろう、てくらい、いろいろあります笑。実話の凄みですね。けど実際はこんなもんなのかもしれないな、という「それっぽさ」が漂っています。

人質たちもときどき何だか楽しそうだったり (ストックホルム症候群、ですかね) 、行員のひとりに彼氏から電話が掛かってきて「いつ帰れるんだ」とか聞かれたり、帰りが遅くて業を煮やしたその彼氏にソニー (アル・パチーノ) が殴られたり笑。もう、何というかムチャクチャです。

一方で相棒のサル (ジョン・カザール) が何考えてんだかわかんない感じもまた怖いです。動のソニーと、静のサル。コントラストも良いですね。そんな物静かなサルにも、飛行機ははじめてで怖いとか、おれはゲイじゃないから訂正してくれとか、ちょこちょこ小ネタが仕込まれていて笑えます。何気に一番面白いかもしれません。マジメそうなひとの、ちょっと天然ぽい笑いが一番ウケますからね。

で、笑ったと思ったらドキドキ、を何度も繰り返して辿り着くラストシーンが、これまたとっても哀しいです。そうだった、アメリカンニューシネマってみんなこーゆう終わりかたなんだった。何だか随所に呑気すぎて、すっかり忘れておりました笑 (それも昔観たことあるにもかかわらず、です) 。サルの最期、哀しいなあ。

ちなみにですが、ジョン・カザールは若くして亡くなっています (享年42歳) 。出演作は少ないですが、いずれも名作ばかりです。今観るとそのあたりも含めて哀しいです。惜しいなあ。晩年はメリル・ストリープと婚約していたんだとか (結婚する前に亡くなってしまいました。哀しい) 。てそれは映画と全然関係ないはなしでしたね。

無事に解放されたあとの人質たちは、ソニーのことなんて見向きもしません。ちょっと連帯感が生まれてたのに。飛行機に乗るならどこの国に行きたいとか、すげー盛り上がってて楽しそうだったのに。所詮は人質と強盗犯。わかりあえるわけないか、と現実に引き戻されたところで映画は終わります。幕のひきかたまで見事。何から何まで完ぺきな一本です。

おわり。

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作品情報

『狼たちの午後 (Dog Day Afternoon)』。1975年アメリカ。シドニー・ルメット監督。125分。主演はアルパチーノ。共演にジョン・カザールほか。アカデミー脚本賞受賞 (フランク・ピアソン) 。

iTunesで観るなら [こちら] 。

 -1989年以前の映画 ,

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