言葉の問題は重要だ【読書】戦争プロパガンダ 10の法則 (アンヌ・モレリ)

   

第一次大戦からアフガン空爆まで、あらゆる戦争に共通する正義捏造、自国正当化のからくり。

戦争プロパガンダ10の法則

『戦争プロパガンダ 10の法則』を読みました。フランス人歴史学者による、戦争プロパガンダの歴史を紐解いた本です。書かれたのは2001年ごろですが、今読んでも内容はほとんど古びていないと感じます。いや古びていないどころか、安全保障問題でいろいろと騒がしい今こそ読みたい、そんな一冊でした (という事情を考慮してか、先ごろ文庫版が出版されました) 。

本書で提示される「10の法則」が、そのまま目次にもなっています。これを見るだけでも何だか恐ろしいです。

  1. 「われわれは戦争をしたくはない」
  2. 「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」
  3. 「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
  4. 「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」
  5. 「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
  6. 「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
  7. 「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
  8. 「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
  9. 「われわれの大義は神聖なものである」
  10. 「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」

争いを望まない国民に、危機意識や恐怖を植えつけ、国防の必要性を解き、戦争へと駆り立てていく。

ほとんどの戦争は、どちらが仕掛けただとか、どちらに一方的な非があるとかいったものでもないのですが、それを巧みに操って、あたかも相手方に非があるかのように (そして自分たちは絶対的に正しいというように。あるいは真の目的__それは金儲けや領土拡大といった理由がほとんどですが__を覆い隠すために) 持っていくのが「プロパガンダ」であり、それを行う上での最短ルートを示したのがこの「10の法則」でもあります。

政治家という名の戦争指導者たちが、意図してこの法則を用いているのか、あるいは自然な帰結として浮かび上がってきた共通認識 (法則とは、えてしてそういうものです) なのかはわかりませんが、いずれの戦争でも上の法則が漏れなく使われていることを、歴史的な事例とともに紹介しているのが本書です。

例として挙げられている戦争は主に第一次大戦、第二次大戦のヨーロッパ戦線、ユーゴスラヴィア紛争といったところでしょうか。著者がヨーロッパ人なので仕方ないですが、日本 (太平洋戦争) の例も載っていたらよかったなあと感じます (これの日本版、誰か書いてください笑) 。

幸いにも今のところ我が国は戦争状態にはありませんが、いつヘンな方向に進んでもおかしくないような状況にあります。

とゆうか、安全保障への「理解」を得る段階で、すでに本書の「法則」が使われていたりもして、ゾッとします。上の「もくじ」を見れば、いくつか思い当たるふしがありますね。怖い怖い。

本書を読んでいて一番なるほどなあと思ったのは、「言葉の問題は重要だ」ということです。

政府 (とそれをそのまま伝えている一部メディア) は、巧みに言葉を選んでいます。「戦争」は「積極的平和」で、「兵站」は「後方支援」。ほかにも本書では「占拠」を「解放」、「情報」を「プロパガンダ」といったようにそれぞれ言い換えられる、と紹介されています。

太平洋戦争のころに言われた「空襲」という言葉は恐怖を想起させるので、最近では「空爆」というんだそうです。なるほど。「誤爆」も敵側がやれば「無差別爆撃」ですけど、こちら側ならあくまでも「誤り」で、これは5番目の法則ですね。

つーわけで、政治家たちは言葉の重要性を十分理解して使い分けているんでしょうが、それを国民に悟られてはならない、とも考えているようです。「言葉の問題にすぎない」という発言には、「大した問題ではない」という意味が含まれています。

そんな事情があるせいか、政治家たちは敢えて言葉を軽くしようとしているのではないかと勘繰りたくもなります。

わざと放言を吐いてみたり、ヌラヌラとつかみ所のない答弁を繰り返してみたりして、「言葉」を貶めることで煙幕を張って、その重要性を隠そうとしているのではないか、と (だれがやっている、とは言いませんが) 。

そんな政治家たちの「言葉」に、何やらゾワゾワとした引っ掛かりを感じたからこそ本書に興味を持った、という背景があったりもします。

陰謀論めいたはなしって、誇大妄想じみていてあんまり好きではないのですが、本書は敵対国同士のどちら側にも肩入れすることなく、淡々と事例を示していくだけで、それがちょっと退屈ではあるものの、最後まで冷静さを保って読み進めることができました。

思えばプロパガンダって、何らかの「感情」に訴えかけることがほとんどなので、本書の構成そのものがそれに抗うひとつの手段、てことなのかもしれません。「事実」のみを見つめ、「感情」に流されないための一冊。

おわり。

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作品情報

アンヌ・モレリ著『戦争プロパガンダ 10の法則 (Principes élémentaires de propagande de guerre) 』。2002年草思社 (2015年草思社文庫) 刊。永田千奈訳。212ページ。

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