おもしろきこともなき世をおもしろく【読書】世に棲む日日 (二) (司馬遼太郎)

      2015/07/13

すみなすものは心なりけり。

世に棲む日日2 司馬遼太郎

『世に棲む日日』の2巻を、ようやく読み終えました。というか、以前に一度読んだのですが、あいだが開きすぎたせいで内容をすっかり忘れてしまい、また1巻から読み直しておりました (なので、二度読んだことになります) 。

1巻の [感想] は、「一度目」を読んだあとにすぐ書いたのですが、2巻は書きそびれていました。というわけで、このエントリが、その感想です (前置きが長いですね笑) 。

この2巻で、物語は早くも大転換を迎えます。これまでの主人公であった吉田松陰が死に (それもわりと前半で、です) 、後半からは主役が高杉晋作へとシフトしていきます。

イメージもキャラクタも、松陰とはまるで異なる高杉が、その精神性の正統な後継者となっていくあたりが、奇妙であり面白くもあります。まあ、異なるとはいっても、ふたりともその短い生涯で、最後まで書生らしさを失わなかった、という点では共通しているのですが。

この長州人特有の書生気質 (松陰がその代表というか源流というか) というものが、この巻ではどんどん顕著になっていきます。それがじわじわ鬱陶しくもあり、司馬さんの他の著作をたくさん読んできた身としては、「ああ、司馬さんは長州人のこと、キライだっただろうなあ」と思われる記述がたくさんあって、思わず苦笑してしまいました。

というか、「一度目」に2巻を読み終えたときは、この書生気質にちょっと疲れてしまい、すぐ次の巻に進む気にはなれなかったのだ、てことを「二度目」を読んで思い出しました笑。

松陰をはじめとする長州閥の気質は、政府 (体制側) というよりはそれを批判する立場、ジャーナリストや、さらに言ってしまえばテロリストの感覚に近いように思います。

日本は、この列島の地理的環境という、ただひとつの原因のために、ヨーロッパにはない、きわめて特異な政治的緊張がおこる。外交問題がそのまま内政問題に変化し、それがために国内に火の出るような争乱がおこり、廟堂 (政府) と在野とが対立する。廟堂とは体制のことであり、外交を現実主義的に処理しようとする。野はつねに外交について現実的ではない。現実的であることを蔑視し、きわめて抽象的な思念で危機世界をつくりあげ、狂気の運動をくりひろげる。

via: P133

でも昨今は、この思想という虚構 (フィクション) を狂気によって維持 (P243) しようとしているのが、ここでいう在野ではなく廟堂 (政府) の側、という甚だややこしいことになっているのですが……。

と、少々脱線しましたが、松陰をはじめとする長州人の書生的なバカ真面目さ、みたいなものは、鬱陶しい一方で人間的なおかしみにも溢れていて、実に微笑ましいです。本作最大の読みどころといっていいでしょう。

松陰が密航を企てて失敗するさまは、さながらコメディの住人のようです。「失敗するために懸命に努力している」(P35) という一文がすべてを表していますね。まあ、死に向かっていく段階でみせる、あまりに純粋な態度は、微笑ましいを通り越して、やっぱりイライラさせられてしまうのですが笑。

高杉にしても、破天荒な性格のくせに、元来のおぼっちゃま気質のせいで、門限がこわくて懸命にまもっている (P116)、なんてあたりはサイコーです。実にかわいらしい。

一方で、そんな書生集団である松下村塾系の志士たちから大いに嫌われ、暗殺されそうにまでなる長井雅楽のことをわりと詳しく書いているあたりが司馬さんらしいなと思います。坂本龍馬の思想とほとんど同じにも関わらず、維新後もほとんど評価されることがなかった長井雅楽の「航海遠略策」をかなり擁護しているふしがあって、面白いです。

またこの2巻では、本作のタイトル「世に棲む日日」の意味も明らかになります。

「おもしろきこともなき世をおもしろくすみなすものは心なりけり」(本エントリのタイトルと、キャッチコピー的な一行目にも使いました) 。おもしろくもない世の中をおもしろく棲み暮らしゆくのは心である (P108) 、という、高杉晋作辞世の句からきています (が、高杉はもちろん、この巻ではまだ死にません) 。

この場面に限らないんですが、本巻を読んでいて、「詩」 (や短歌・俳句も含む) ついて考えることも多かったです。

これまでぼくは、「詩」というものにはまるで興味がなかったのですが、短い言葉で情景を切り取ったり、あるいは「詩」のような風景、というものを考える作業は、わりあい楽しいものなのかもしれないな、なんてことを思ったりしました。ぼくは「文章が巧くなりたい」と常々思っているので、詩作もその「文章力の鍛錬」という意味では、大いに役立つのかなと。

現代でいえば、作詞もこの延長線上にある作業ですね。ことばの意味よりも、情景やリズム感といったものが大事になってくる。それを字数などの制約がある中で文を繋いでいって、感情に訴えかける。

わりと固いイメージがある「詩」も、そんなふうに考えると楽しめる、のかもしれません。

さてさて、戦乱へと向かっていく次巻はどんな展開を辿るのか、ますます楽しみですねー (て一度ほったらかしてるんで、まるで説得力がないですね笑) 。今度はさっさと読みます笑。

おわり。


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作品情報

司馬遼太郎著『世に棲む日日 (二) 』。1975年文春文庫刊 (2003年新装版 / 1969 ~ 70年連載) 。311ページ。

kindleには「合本版」なんてものありました。

 -小説

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