迷路荘の惨劇 (横溝正史)【読書】

      2015/09/02

角川文庫・金田一耕助ファイルの8冊目『迷路荘の惨劇』を読みました。子どものころハマった金田一を、1年ほど前からちょっとずつ読み返してきましたが、本作を読むのはまったくの初読でした。

迷路荘の惨劇 金田一耕助

この画像はkindle版の表紙になっているのですが、ボクが持っている (というか、今回は図書館で借りました) ものとは違う画ですね。つかこの画像の画だと、だいぶネタバレになっているような……。左腕がない男、の肩にはちゃんと鼠まで描かれていて、なかなか芸が細かいです。

今回の舞台は伊豆の豪邸です。金田一物語の舞台は岡山か東京の場合が多いので、ちょっと珍しいです。作中にもちょっとだけ言及されていましたが、『女王蜂』(金田一耕助ファイルでは、次の9冊目) も伊豆が舞台のようです (依然に読みましたが、さっぱり忘れてしまいました笑) 。

かつては貴族の別荘だった建物を改築して、近々ホテルとして開業予定の名琅荘 (めいろうそう) で、連続殺人事件が起こります。20年前にも凄惨な事件が起こっている因縁の地で、そんな場所をホテルにしてしまって大丈夫なのかと心配になります。

戦後の没落貴族、いわゆる斜陽族のおはなしというのは、『悪魔が来りて笛を吹く』と似た雰囲気があります。フルートが重要な小道具として事件と関わってくるあたりも、よく似ています。

名琅荘の地下には広大な洞窟空間が広がっていて (迷路荘と言われている所以です) 、そこを探検するさまは『八つ墓村』を彷彿とさせます。ふたつの傑作を、足して2で割ったようなお得感、といった趣きです。

じゃあ面白さも倍になっているのかというと、そういうわけでもないのが難しいところです。迷路のような建物の構造を活かしきれていない印象を受けます。一方で、人間関係の複雑さや、ミステリとしてのややこしさはさながら迷路のように難解で、はなしがだいぶ散漫です。途中、ちょっとワケがわからなくなってしまって、イマイチ乗れませんでした。何だかすっきりしない部分も多かったです。

ちょっと調べてみたところ、もともと短編だったおはなしを膨らませて、改めて長編として発表したんだそうです。実際に読んでみると、たしかに無理やり広げたと思えるふしもちょこちょこあります。

金田一の中でも傑作中の傑作といえる『悪魔が来りて〜』や『八つ墓村』とヘタに似てるぶん、二番煎じのように感じてしまうのかもしれません。これならコンパクトにまとまってる短編のほうが、返ってよかったのかもしれません。ショートバージョンもいずれ読んでみたいなあ。

人間関係が複雑、と書きましたが、読むうえで巻頭の登場人物一覧表は、だいぶ重宝しました。欲を言えば家系図 (人物相関図) や (洞窟も含めた) 名琅荘全体の見取り図もつけて欲しかったです。まあ、そのあたりを解くのが金田一の仕事なんですが笑。

迷路の構造がすべて文章で説明されているので、記述はやや冗長です。何度も何度も洞窟に入り、そのたびに描写があって、おかげで空間配置や洞窟内部の空気はかなりイメージしやすくなります。それが本作を読むうえで最大の愉しみといえなくもないのですが、やはり文章だけだと限界があるようにも感じました。

金田一特有のおどろおどろしさは、今回、やや薄味です。まあ、ぼく自身が慣れてきたってのもあるんですが、前振りが仰々しいわりに、そこまでの「怖さ」は感じませんでした。これも『八つ墓村』なんかと比べちゃうからかもしれません。ホラー的な要素は控えめで、それよりはちゃんとミステリをしてる印象です。といってもまあ、左腕を切り落とされた怪人 (おなじみすぎる笑) だとか、洞窟内で鼠にかじられる死体、なんてあたりは、十分恐ろしいのですが。

前半の、容疑者をひとりずつ呼んで事情聴取をするあたりは、クリスティ『オリエント急行殺人事件』にちょっと似ています。だとすると、犯人はあのひとかな (というか、あのひと「たち」) ?なーんて思いながら読み進めたのですが、結末は当たらずとも遠からず、といったところでした。

ラストでみせる金田一の大岡裁き的な決着といい、読後のカタルシスもわりと似た感じで、好きです。初読で期待が高かったせいか、文句の多い感想になってしまいましたが、何だかんだいって今回も金田一世界を十分堪能できました。隠し通路のある家には住みたくないなあ笑。

おわり。


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作品情報

横溝正史著『迷路荘の惨劇』。1976年角川文庫刊 (初出は『オール読物』1956年8月号) 。496ページ。

 -小説

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