終わるまでが戦争です【映画】日本のいちばん長い日(2015)

      2015/09/06

降伏か、本土決戦か__。

日本のいちばん長い日

『日本のいちばん長い日』の試写会に行ってきました([公式ページ] と [予告編] はこちら。もう公開してしまいましたね笑)。

ポツダム宣言受諾までの24時間を描いた映画で、原作は1965年に発表された半藤一利さん(名義は大宅壮一)のノンフィクション。タイトルは、ノルマンディ上陸作戦を描いた映画『史上最大の作戦』の原題 ”The Longest Day” から取っているそうです。

1967年にも、岡本喜八監督で映画化されていてます(ちなみにその岡本喜八版、ぼくは未見なんですが、今度8月15日にNHK-BSで放送される予定で、とても楽しみにしています)。

で、今回は原田眞人監督版。本作で描かれている史実自体、ぼくはあまりよく知らなかったので、かなり新鮮な気持ちで楽しむことができました(この種の映画で、「楽しむ」という表現が適切かどうかはよくわかりませんが)。

物語は終戦時の総理大臣、鈴木貫太郎(山崎努さん)が首相に就任し、内閣を組閣する1945年4月から始まります。物語の中心は、8月14日から15日にかけての24時間。そのまえの8月上旬、御前会議で昭和天皇(本木雅弘さん)による二度の「ご聖断」があって、14日夜までに「終戦の詔書」を作成し録音、一方では強硬派の若手将校たちによるクーデター未遂(宮城事件)があったりして、15日正午にラジオで玉音放送を流すまでが、どの登場人物にも寄り添うことなく、わりと淡々とした雰囲気で描かれていきます。

淡々としているからこそ、かえって切迫感があって、当時の「空気」がピリピリと伝わってきます。終戦というゴールは知っているにもかかわらず、いたるところハラハラしてしまいました。

よく思うのですが、時代劇を含めた歴史物って、会議のシーンが一番面白いです。歴史的な決定がなされるのは、すべて会議の席です。それも本作の場合、地下の薄暗い場所(御文庫附属室)で、重大な決定がなされていく。その決定が、日本全国民の運命を握っている。その場にいる人物の緊張感が、映画を観ている我々にもヒシヒシと伝わってくる。素晴らしいです。

先に「誰にも寄り添っていない」と書きましたが、それは登場人物の「善さ」も「悪さ」も平等に描いているからです。こいつが悪役で、ということを一概に言うことができません。クーデターの首謀者、畑中少佐(松坂桃李さん)にしたって、当時の彼らの論理というものも、十分に理解できる。そんなある種の説得力を伴っているわけです。

陸軍と政府の間で板挟みに合いながら、絶妙の感覚でポジションを保つ阿南惟幾陸軍大臣(役所広司さん)にしても、過度にかっこよくは描いていません。本心はどこにあるのか、敢えて分かりづらいようにしているところもあります。そんな複雑さもまた魅力的です。

ただ、唯一昭和天皇だけは、悪い面というものを描いていなくて、多少、寄り添うことができるようにはなっています。英語のタイトル(?)も、「The Emperor in August」(8月の陛下)となっているように、ある意味、昭和天皇が主人公、なのかもしれません。

その昭和天皇を演じた本木雅弘さんが、本当に素晴らしかったです。玉音放送にいたっては、間合いを含めて完コピといえる内容で、その部分だけでも、本作を観る価値は十分にあるでしょう(ホンモノの音源を音楽プレーヤーに取り込んで、ひたすら聞いたそうです)。

先ごろ玉音放送の原盤(と、映画の舞台となる御文庫分析室の現状写真)が、宮内庁から公開されたばかりでもあるので、本作を観る前後にでも聴いてみると、また違った感慨がえられるかもしれません。

参考 ▷ 「玉音放送」の原文と現代語訳:朝日新聞デジタル

参考 ▷ ここから、戦後は始まった 御文庫附属室と玉音原盤公表:朝日新聞デジタル

山崎努さん演じる鈴木貫太郎首相が醸し出す、飄々とした雰囲気もよかったです。この映画、役者さんはみな、凄まじい説得力でした。

ただ、誰とは言いませんが、ある若手俳優さんは発声がヒドくて、ほとんど何を言っているのか分からなかったのが、少々残念でした。これは以前にもどこかで書いたような気がしますが、昔の映画って、何を喋っているのかわからないような、むかし言葉の時代劇でも、ちゃんと聞き取れるんですよね。それが本作では、用語が難しいというのはあるにしても、あまりに聞き取りづらくて、苦痛でした(一応、フォローもしておくと、劇場の音響設備とも関係があるのかもしれません。良い劇場で観れば、さほど気にならないかもしれません)。

本作は、ところどころに「笑い」が挿まれているのも、よかったです。緊張が連続する中で、フッと力が抜ける感覚が、いいアクセントになっていました。もうちょっと多くてもよかったように思いますが、多すぎると緊張感が薄れてしまいますし、塩梅が難しいです。

ところで本作を観ると、戦争をはじめるのは簡単でも、終わらせるのはかくも難しいのか、ということが、改めてよく分かります。

昭和天皇でさえ、だいぶ早い段階で戦争を止めたいと欲していたのに、誰も一度盛り上がってしまった熱狂を抑えることができず、被害を拡大してしまった。どこかの国の首相がよく言う「状況をコントロールする」などということが、戦時下では妄言にすぎない、ということが、とてもよく分かります。

畑中少佐たち強硬派が主張していた、本土決戦、特攻作戦が実現していたら、どうなっていたか。

特攻というのは、『永遠の0』(ちなみに、ぼくは観たことも読んだこともありません笑)のような、神風特攻隊のことではありません。青年も老人も、男も女も、民間人が、爆弾の満載されたリュックを担いで、おびき寄せた敵のもとに、飛び込んでいく。自爆テロそのものです。

強硬派は、2000万人で特攻をやれば、必ず勝てると主張していた。ゾッとします。そんなことをしていたら、本作で昭和天皇が言っていたように、日本民族は滅亡していたでしょう。国体(天皇家)守って、日本人滅ぶ。そんなことはもちろん、昭和天皇も望んではいませんでした。

強硬派の主張は、現代のわれわれからすると、何という愚かなことを、と思ってしまいますが(大河ドラマ的な歴史観ですね)、当時の空気としては、無条件降伏をすれば国が壊れてしまう、という恐れもあったわけで、それは到底飲めない、という主張も、わからなくはありません。

ただ、戦争の大局的な引き際を見誤った大本営の連中が、自らのクーデターでもその潮目を読み違える、というのはなかなかよくできた構図で、こんな連中が日本陸軍600万の兵隊を動かして、いい気になっていたのかと思うと、多少の怒りも覚えます。

それと、これは昨年、オリバー・ストーンが作った『もうひとつのアメリカ史』を観たときにも感じたことですが、本作を観ると、アメリカの原爆投下よりもソ連の対日参戦のほうが、やはりずっと決定的だったのだな、ということもよくわかります。

原爆によって戦争を終結させた、だから一定の価値はあったのだ、というのは、アメリカの詭弁だということがよくわかります。冷戦時代への布石というか、日本を占領するうえでの効果は(アメリカの論理としては)あったのかもしれませんが、戦争を終わらせる効果は薄かったように感じます。

それでも、玉音放送では「残虐な爆弾」と触れられていますが、ソ連については何も述べられていないので、日本人でも誤解しているひとが(当時は)多かったのかもしれません。

もし戦争がつづいていたら、北海道あたりまでソ連軍が進軍してきて、日本もドイツのように、南北で分断されていた可能性が高い。そうなってしまう前に終戦を迎えたというのは、大きかったと感じます。

ところで、ぼくの祖父は、大正12年(1923)年生まれで、終戦時は22歳でした。当時の20台男子はみなそうであったように、当たり前のように徴兵され、陸軍軍人として終戦を迎えました。

当時祖父は満州にいたのですが、敗戦つづきの南部で戦闘員が不足したことにより、南方へ再配備される途上、朝鮮半島まで南下してきたあたりで、終戦に向けた動きが活発化し、しばらく据え置かれ、そのまま15日を迎えました。そのため、外地にいた中では、比較的早く復員できたそうです。

もし。

もしこの映画で描かれている政府の決定が、いま少し遅れていたら。あるいは反故にされていたら。

祖父は太平洋のどこかの島へ送られ、そこで敵兵に殺されるか、あるいは熱病にかかるかして、阿南陸相の息子のように、いつどこかもわからないような状況で、戦死していたかもしれません。

あるいは、再び満州に戻され、迫り来るソ連軍に捻り潰されていたか、あるいは捕虜としてシベリアへ送られ、過酷な強制労働につかされていたかもしれません。

そうなっていたら、当然ぼくも、この世に生まれていなかったわけで、そのことを思うと、あのタイミングで戦争を終わらせてくれたのは、遅すぎたとはいえ、本当に尊い決断だったのだと、震えるような感慨がありました。

日本人であるぼくたちが、70年前に思いを致すとき、まず観るべき一本。

おわり。

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作品情報

『日本のいちばん長い日』。2015年松竹ほか。原田眞人監督。136分。

主演は役所広司。共演に本木雅弘、松坂桃李、堤真一、山崎努ほか。8月8日公開。

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