モダン・タイムス (1936)【映画】

      2014/12/02

笑えるけど、笑えない。

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photo credit: Profound Whatever via photopin cc

伊坂幸太郎さんの小説『モダンタイムス』を読んでいます。まだ読んでる途中なんですが、とても面白くて、もうこれ今年読んだ本の中で一番なんじゃねーかってくらいハマっております。

ところでこの『モダンタイムス』ってタイトルは、この小説以外でもどこかで出会ってたよなあ何だっけ、と思ってたんですが、答えは小説の中にありました。

「機械化っていうのは、技術的な、オートマチック化という意味かい?」訊ねる私の脳裏には、昔、祖父の家で見たとてつもなく古いサイレント映画、確か、『モダン・タイムス』というタイトルだったと思うが、その場面が映し出された。産業革命により、工場が機械化され、人間が翻弄される話だった。

「まあ、狭い意味だとそうだな。たくさんの製品を製造して、管理機構を作って、最大限の効率化をはかる。技術力、システム化が進む。すると、だ。分業化が進んで、一人の人間は今、目の前にあるその作業をこなすだけになる。当然、作業工程全部を見渡すことはできない。そうなるとどうなるか分かるか」

「人はただの部品だ」

via: P277, モダンタイムス(上) / 伊坂幸太郎

ああ、チャップリンか。気になったので、小説はまだ途中なんですが、映画の方を観てみました。

初めてのチャップリン映画

チャップリンの作品は印象的なシーンが実に多いです。トップの画像はレゴですが、歯車の中をチャップリンが通っていくシーンはあまりにも有名で、誰しも一度くらいは目にしたことがあるのではないでしょうか。

そんなわけでついつい観た気になってたりもするんですが、チャップリンの映画を全編通して観るのはこれが初めてでした。ついでに付け加えるとサイレント映画を観たのも初めてです。

モノクロなのはまあいいとして、サイレントまでいっちゃうとどうも取っ付きにくいなあってゆう偏見がありました。時代背景とかもちょっと難しそうだし、理解できるかな楽しめるかなだいじょぶかな、なんて思ってたんですが、全部杞憂でした。

観終わった今、むしろサイレント映画こそ映画の本質なのではないかとさえ思っています。

言葉はいらない

微妙にしゃべったり歌ったりもするので厳密な意味でのサイレント映画ではないんですが、あくまで補足的な感じなので、サイレント映画といっちゃっていいでしょう。

しゃべらない分動きでいろいろ表現しないといけないので、どうしても芝居はオーバーになってしまうのですが、この映画に関しては全く違和感がありません。チャップリンのコミカルな動きにとてもマッチしています。というかあの動きで下手に台詞とか付くと中途半端な現実感がよぎるので、逆に違和感があるかもしれません。

そう考えるとサイレント映画というのは、もちろん当時の技術的な問題があったにせよ、チャップリンのためにデザインされた手法なのではないかとさえ思えてきてしまいます。

最近の映画は低質なものだとなんでも台詞で説明しようとしますし、音も無駄にたくさん入るし、ただただうるさいだけの作品もしばしば。そういうのは観る気がしないし比べるのも失礼なんですが、この映画を観てるともう台詞とかむしろいらねーんじゃねえかとさえ思ってしまいます。映像なんだから、まず「視覚」で楽しまないと。洗練された映画に言葉は必要ないのですね。

チャップリンの身体能力

動きだけの映画、芝居というのは、バレエなどの身体表現を主とした芸術に近いなあと思いました。まあバレエ生で観たことないんですけどね。

チャップリンの動きには、何かある種の型のようなものがあってそれに忠実に動いている、という印象を受けたので、そういう意味では歌舞伎にも近いなあと思いながら観ていました。社会的弱者が大きなうねりに翻弄されながらも強く生きる、みたいなテーマもいかにも歌舞伎っぽいですし。

ストーリー的な流れなんかは落語っぽいなあと思った部分もあるし、コミカルな歌舞伎というと意味では狂言にも近いのかなあなんて。いずれにしても古典芸能ですね。というか、この映画自体もうざっと80年くらい前の作品なので、十分古典の領域なのですが……。

それにしても圧巻なのはチャップリンの身体能力。なんてことないオッサンみたいな風貌ですが、動きの引き出しが凄まじいです。

何歳くらいなのかちょっと気になったので調べてみたところ、公開時もう50近いんですね。それにしてはすげー動き。てか見た目若い?のか?劇中ではモノクロなのもあって年齢不詳な感じです。

チャップリンのコミカルな動きを観てるだけでも十分楽しめてしまう映画です。僕的に好きなシーンは刑務所で覚醒剤を飲んでしまうシーンと、ラストの方でチャップリンが歌うシーンです。どちらも予想できすぎるほど定番の展開ですが、それでも爆笑できます。ドリフの笑いと一緒です。コメディは万国共通だなあ。

笑えるけど笑えない

チャップリンはもちろん可笑しいのですが、内容的にはちょっと笑えないところが多かったです。テーマがあまりに現代的というか、もうこれほとんど予言者なんじゃないかといえるくらい今のしかも日本の社会問題とマッチしすぎてて怖いくらいです。逆に言うとチャップリンのコミカルな動きがかろうじて救いみたいになってます。

ストーリーは伊坂さんの引用でだいたい説明されてるんですが、僕が気になったところをいくつか。

主人公のチャップリンは冒頭、工場の労働に疲弊して発狂して入院します。これは現代でいうところの鬱病でしょう。当時からこういう人は多かったのでしょうか?というか鬱病という概念があったのかどうかがまず僕にはわかりかねるのですが、いずれにしても現代ではとても深刻な病気です。こういうのをチャップリンは当時から予見してたんでしょうか?

映画の当時と比べると、現代はより (というかチャップリンが想像していたであろう以上に) システム化、分業化が進んでいます。鬱病はこのことと無関係ではないでしょう。

深いなあと思ったのは、映画の中のチャップリンは、とても正常な人間であるということ。そんな普通の人でも、高度にシステム化された社会 (つまり現代) では精神を病んでしまうことがある、というのはあまりに的を射ていてすごいなあ、怖いなあと感じました。

それとこの主人公はきわめて誠実な人間でもあるのですが、正しいといえる行動が必ずしも評価されるわけではない、ということもいろんなところで描かれています。勘違いだったりたまたまうまくいかない運の悪さだったり、理由はさまざまなのですが、やる気もあって頑張ってるのに評価されない、てのは、昔から変わらない、しかたのないことなのか、はたまた社会が複雑化してきてそうなってしまったのか。いずれにしても不条理な社会、というのがとてもリアルに描かれています。

印象的だったのは、刑務所での善行が認められて出所が早まるシーン (この映画は主人公が何度も逮捕されるのです) 。普通なら喜ぶところですが、チャップリンは「出たくない。ここにいる方が幸せだ」みたいなことを悲しそうな顔で言います。

刑務所の方が暮らしやすい、という社会はあまりに不幸だと思いますが、現代の日本では、生活苦からわざと捕まるために犯罪を犯す、なんてこともあるので、ここでも現代の日本とリンクしてるなあなんて考えたらあんまり笑えませんでした。

効率化と幸福感

僕自身いろいろと「効率化」することが大好きで、これは最近の生活におけるある種のキーワードだったりします。効率的に生きるといろいろ楽ですし、タスク管理とかGTDだったりを考えることそのものが楽しいと思えるのでやっているわけですが、時として、何のためにそんなに「効率化」したいんだろう?なんてことをふと立ち止まって考えたりもします。

それは「効率化」しなくていい時間を獲得するためなのではないでしょうか?

「効率化」しなくていい時間、というのは大切な人と過ごす時間だったり、休日読書しながら物思いに耽ったりとか、そういう時間です。

映画の中で、食事を効率化する機械、が出てきます。食事なんかは、効率化しなくてもいい時間の最たるものだと思います。飯ぐらいゆっくり食わせてくれよ、と。

人間の「幸せ」というのは、食事だったり趣味だったり大切な人との時間だったり、そういう「非効率」の中に潜んでいるのかなあと思ったりもします。そういう時間を確保するために、「効率化」できるところは「効率化」したい。ということです。

何でもかんでも「効率化」してしまっては、それこそ機械と変わらなくなってしまいます。それはあまりにも虚しく、意味のないことだと思います。

人間は部品ではないのです。

まとめ

最高に笑えて、それでいて現代でも、というよりは現代でこそ深刻な問題から果ては人間とは何か、幸せとは何かということまでいろいろと深く考えさせられる、素晴らしい映画でした。

上映時間も90分くらいなのでサクッと観ることができます。これくらいの長さの映画がちょうど良くて好きです。

それともうひとつ。

この映画の素晴らしいところは音楽です。サイレントなのにね。いや、サイレントだからこそなのかな?

それまで一言も発しなかったチャプリンがいきなり歌い出す「ティティナ」、聞くだけで涙が出そうになるラストシーンの「スマイル」。どちらもいろんなところで使われまくってる名曲なので、一度は耳にしたことがあると思います。あえてリンクは載せませんが、youtubeで検索すれば簡単に見つかると思うので是非。

それにしてもチャップリンはすげえなあ。他にもたくさん名作があるので、ちょっといろいろ観てみたくなりました。伊坂さんの小説ではもうひとつ、『独裁者』も結構引用されてるので、次はそれ観てみようかなあ。

 -1989年以前の映画 , ,

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