風に舞いあがるビニールシート (森絵都)【読書】

      2014/02/13

大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語。

森絵都著『風に舞いあがるビニールシート』読了。2009年文春文庫 (2006年文芸春秋) 刊。342ページ。

風に舞いあがるビニールシート

本書との出会い

森絵都さんの小説を読むのは本作が初めてです。知り合いに勧められてほとんど情報なしの、それこそ著者の名前の読み方すらよく知らない状態で (「もりえと」さん、ですね) 、それほど期待するでもなく何の気なしにフワッと読み始めました (僕は基本裏表紙のあらすじは読みません。できるだけ先入観なしで楽しみたいので) 。

細やかな描写と、圧倒されるような力強いストーリーにたちまち惹き込まれました。文章はそれほど映像的ではないのに、情景がありありと浮かんでくるから不思議です。

テンポはいいですし、短編なのでそれぞれの物語はコンパクトにまとまってて、とっても読みやかったです。そして何よりも、サラッと出てくる何気ない一文がすんごい刺さります。いやー参りました。

あらすじ

才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり……。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。

via: Amazon内容紹介

「価値観」を巡る6編。それぞれのお話は完全に独立していますが、「大切な何か」という一本の軸がそれぞれのおはなしをゆるーく繋いでる感じです。

何か並び順なんかもこれしかないって感じで素晴らしいです。音楽でも良いアルバムは曲の並びや繋がりが考えられてたりしますが、そういう上質なアルバムを聴いたときと似たような充足感を味わえる短編集です。完璧にデザインされててすごい!

それと、「何これおんなじ人が書いたの?」てくらい6つの物語の雰囲気が違くて、その引き出しの多さにも驚かされました。

こんな人にオススメ!

うーん、およそ小説が好きな人は誰でも楽しめるんじゃないかなあと思います。などと元も子もことをいってしまうほどいろんな人にオススメできちゃう感じです。

僕は普段、ミステリやサスペンス、あるいは歴史小説といったジャンルを中心に読んでいますが、全く趣きが異なる本作もかなり楽しく読むことができました。なのでそれこそ僕と似た方面のジャンルが好みだけど、いつもとちょっと違う雰囲気の小説もたまには、なんて思ってる人にはピッタリです。

かなり多様な世代 (あと国籍も!) が男女問わず登場するので、6つのおはなしのうちのどれ (誰) かしらには共感できるんじゃないかなあ。

職業も、主婦、大学生、営業担当のサラリーマンといった一般的なものから、パティシエ、仏像の修復師、国連難民高等弁務官といった特殊なものまで実に多彩。珍しい仕事はそれこそ「お仕事ハッケン」的な楽しみ方もできます。

ここにグッときた!

不器用な人々

どの物語の主人公も、自らの価値観を守るために懸命に生きています。しかもかなり不器用です。もっと適当に手抜いて、楽に生きればいいのになあとも思いますが、やはりゆずれない一線はあります。みんなとっても人間くさいです。

僕自身けっこう不器用かなと自分では思いますし、同様に不器用な登場人物たちにはけっこう共感できます。

大好きな学問に手を抜けない『守護神』の裕介や、道を究めようとするあまり周囲と衝突してしまう『鐘の音』の潔あたりは、性別や世代が近いせいか特にグッときました。

絶妙な構成

並べかたがとってもうまくデザインされてててスゲ、みたいなことを先に書きました。物語ごとに「価値観」との距離感、のようなものがちょっとずつ変化してく感じが面白いです。

どういうことかというと、最初の2編『器を探して』と『犬の散歩』は、主人公たちが持ってる価値観てのはある程度定まってて、その中でどう生きてくか、といった趣きの物語です。

この2編は、彼女たちの価値観そのものに対して読み手のこちらはどう思うか、てのをいろいろと考えながら読むことができます。

実際『器を探して』では才能に惚れるって危ういなあってことを考えたり、『犬の散歩』では社会的に意義のあるボランティアって何だろう、とか考えたりしながら読みました。

それが真ん中の2編『守護神』と『鐘の音』になると、主人公自身が自らの大切にしたいことを「発見」したり、価値観が「変化」していく過程だったりを描いています。

先の2編では価値観そのものはあんまり揺らがない感じなんですよね。あくまで一定の価値観に対してどう折り合いをつけてくかみなたいなことを描いてて、時間的にも数日だったりの短い期間、ほんのワンシーンを切り取ってる感じです。

対して真ん中の2編では、数年とかの時間感覚で、物語にちょっとした深みも生まれます。

変化する中でももちろん彼らの価値観に対してどう思うか、てことを考えることもできますが、それよりも登場人物が迷い変化していく様をじっくりと楽しむ感じで読むことができます。

で、最後の2編『ジェネレーションX』と『風に舞いあがるビニールシート』は価値観の共鳴や衝突を扱ったお話。主人公が2人になって、2つの価値観が重なったりぶつかったり、てのを描いてる感じです。

もっともわかり合えなさそうな世代間で価値観が共有されたり、わかりあった末の「夫婦」という関係性で価値観が激しく対立したり、ちょっと一筋縄じゃない感じもいいですね。

1人の点から変化という軌跡をたどって、最後は2人に広がってく構成、ホントよくできてるなあ。

小道具の使い方が巧い

表題作『風に舞いあがるビニールシート』では、タイトルにもなってる「ビニールシート」を使った比喩が実に巧みです。

他の作品でも、「器」や「犬」、「仏像」から「野球のポジション」まで、ポイントとなる小道具の使い方が本当に巧いなあと唸りっぱなしでした。

小道具ってほどじゃないですけど、『守護神』のバック・トゥ・ザ・キンジローは笑ったなあ。

さいごに

それぞれの主人公たちが「大切にしている何か」には共感できない部分もけっこうあるんですよね。捨て犬や難民の救済ボランティアとかまるで興味ないです。

でも物語にはグッときちゃうから不思議です。共感できなくても楽しめるって相当すごいことだと思います。あるいは対象は何でも良くて、その先にある人間の根源的な部分が丁寧に描かれてるから楽しめたのかなあ。

森絵都さんの他の作品も読んでみたいですね。また気になる作家が増えちゃったなあ。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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