フェルマーの最終定理 (サイモン・シン)【読書】

      2014/02/14

数学者たちが生涯をかけて求めたのは、たった一行の真理だった。

フェルマーの最終定理 サイモンシン

サイモン・シン (Simon Singh) 著『フェルマーの最終定理 (Fermat’s Last Theorem) 』読了。2006年新潮文庫 (2000年新潮社) 刊。青木薫訳。495ページ。

17世紀、ひとりの数学者が謎に満ちた言葉を残した。「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」以後、あまりにも有名になったこの数学界最大の超難問「フェルマーの最終定理」への挑戦が始まったが__。天才数学者ワイルズの完全証明に至る波乱のドラマを軸に、3世紀に及ぶ数学者たちの苦闘を描く、感動の数学ノンフィクション!

via: 背表紙

以前に読んだのはいつだったか忘れてしまったが、発刊年から考えてもそんなに昔のことではないだろう。ここ5年くらいの間かな。

なんといっても内容を知り抜いているはずの訳者である私でさえ、本書を手に取ってどこかのページを開くたびに、いまだに話に引き込まれ、ついつい先まで読んでしまう。そしてクライマックスでは熱い感動を味わうことになるのだから。

via: P494, 文庫版に寄せて

再読なのに何でこんなに面白いんだろ、てくらい楽しく読むことができた。訳者さんも「文庫版あとがき」に似たようなことを書いていて、ホントその通りだよなあと思わず笑ってしまった。

テレビの世界で鍛えられたのか、サイモン・シンは一般読者に理解してもらえる記述をすることに骨身を削っている。実際、本書には難解なことは何一つ出てこないにもかかわらず、ワイルズが何をやろうとし、どういう道筋をたどったかが鮮やかに見えるようになっている。専門的な数学を事細かに説明せずとも、数学上の業績の偉大さをこれだけ説得力をもって訴えうるというのは、たいへんな力量である。フェルマー関係の本は数多く刊行されているけれども、”フェルマーの最終定理”の証明が数学全体にとってどういう意味をもつのかをドラマチックにわかりやすく描いているという点で、本書の面白さは群を抜いている。

via: P486 ~ 487, 訳者あとがき

フェルマーの最終定理という問題そのものが十分魅力的なのはもちろんなのだが、ストーリーテリングの素晴らしさも本書の大きな魅力だろう。

超難解な数論の話が、めちゃくちゃエキサイティングな「物語」として成立してて、全人類規模の壮大なミステリーを読んでいるような気になってくる。とにかく先が気になりまくって一気に読めてしまう。

「わかる」てことが科学の面白さのひとつ (というか中心) といっていいと思うのだが、その科学を扱ったおはなしで「わからなくても面白い」てのはよくよく考えたら驚異的なことだろう。

フェルマーの最終定理をめぐる物語は、数学の歴史と分かち難くからみ合い、数論の主要なテーマはすべてこれにかかわっている。この物語は、数学を前進させるものは何かという問題、そして、数学者を奮い立たせるものは何かという、おそらくはいっそう重要な問題に対して比類のない洞察を与えてくれる。数学界の偉大な英雄たちを一人残らず巻き込んで展開する、勇気、不正、ずるさ、そして悲しみに彩られた魅力あふれる冒険物語__その中心にあるのが、フェルマーの最終定理なのである。

via: P22, はじめに

本のタイトルだし当たり前なのだが、「フェルマーの最終定理」、あるいは数学そのものが主人公みたいな物語である。

人物としてはいちおう「解いた人」アンドリュー・ワイルズが主役だが、「謎をかける人」ピエール・ド・フェルマーはもちろん、レオンハルト・オイラー、クルト・ゲーデル、エヴァリスト・ガロア、さらには時代を遡ってピュタゴラスやユークリッド (本書の表記はエウクレイデス) に至るまで、およそ数学史上の重要人物がほぼ全て登場する。この天才数学者大集合ぶりが何とも豪華である。

ゲーデルの話なんてあんまり関係なさそうなのに、さらっと混ぜてくるあたり実に巧み。数学研究ってどうやって進んでくんだろう、みたいな大まかな流れをざっと俯瞰することができる。

天才たちの生々しいエピソードがたくさん読めるのも本作の醍醐味。恋に悩んだり嫉妬したり、数学の天才といえども悩みは僕らと大して変わらなくて、ちょっと親しみが持てたりもする。

まあ何かに秀でている人間は別のところが下手くそだったりして、全能な人間てのはなかなかいない、てことなのかもしれない。

「フェルマーの最終定理」の証明には「無限をいかに扱うか」というところがすげー大きな難問として立ちはだかってくる。

命題では無限を扱っているのに、解いたと主張したフェルマーが、「本の余白」という有限の場所を理由にその証明を書かなかったとゆうのが何とも最高におしゃれだなあと感じる。

いたずらのつもりだったのか、本気の意地悪だったのか、はたまた証明したというのは単なる勘違いだったのか。

真相は謎、とゆうか仮に正しい証明を持ってたとしてもワイルズの証明と同じではないはずだけど、命題の無限と有限の余白、という対比は何だか仕組まれたものなんじゃないかと勘繰りたくなるほどよくできてるなあと思う。

それに、「フェルマーの最終定理」が証明されたからといって (数学者以外の) 人々が生きていく上で直接的には何の関係もない、数論は役に立たない、てのが最高に素晴らしいなあと思う。

数論に限らず科学では本来「役に立つかどうか」てのはあまり関係がないんだよなあ。そんなことよりとにかくどうなってんのか知りたい、わかると面白い、てのが科学の本来の楽しみ方だし、科学者本来の姿勢なんじゃないかなあとゆう気がする。

「私は良さ (goodness) の哲学というものをもっています。それは、数学はその内に良さをそなえていなければならないということです。楕円方程式の場合であれば、モジュラー形式でパラメトライズできる方程式は良いものと言えます。私は、すべての楕円方程式が良いものだと期待しているのです。これはかなり粗い哲学ですが、出発点にするのならかまわない。もちろん私は次のステップとして、この仮説を支持するさまざまな専門的根拠を見つけなければならないわけです。この予想は、良さの哲学から芽生えたものと言ってさしつかえありません。たいていの数学者は、自分の美意識に照らして数学をやっているものです。そして良さの哲学は、私の美意識から生まれたものなのです」

via: P297

谷山豊と志村五郎とゆう日本人の数学者が登場する。とゆうか、彼らの手による「谷山・志村予想」が「フェルマーの最終定理」の証明にとても重要な役割を果たすことになる。

この二人の物語が展開する第V章は、外国人である著者がよく書いたなあと思う反面、日本人が書いたものではないことがちょっぴり悔しいと思えるくらいに切ない。本書のエピソードの中でも一番好き、てのはやっぱりおんなじ日本人だからかなあ。

上の引用は、志村五郎が言う「良さの哲学」。こういう美意識みたいなものは、すべての科学者が持つべきものだと思う。いや科学者に限らずとも、人生にはこういった哲学が必要なのかもしれない。

さいごに

気になった箇所をいくつか拾って書いてみたのだが、あんまり本筋とは関係ないところばかりになってしまった。この素晴らしい物語の感想を書くには余白が狭すぎる、てことで。

数学的な内容はそれほど難しくない、とゆうか説明が丁寧なので、文系理系関係なく読めるんじゃないかなあ。むしろ数学苦手、てひとにこそ読んで欲しいなあと思う。どうしても難しいところは読み飛ばして、数学者たちの物語を追いかけるだけでも「何だかわからないけど面白い」と思えるんじゃないか、という気がする。

もうちょっと数学の中身にも踏み込みたければ、『数学ガール/フェルマーの最終定理』なんかが易しすぎず難しすぎずの程よい内容なのではないかと思う。

フェルマー関連の書籍は他にもたくさんあるし、勉強するには事欠かないだろう。どれが良書か、てのはまた別問題だけど。僕も勉強がてら何冊か読んでみようかなあ。

おわり。こーた ( @cota1Q82 ) でした。

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