砂時計の七不思議 (田口善弘)【読書】

      2014/07/11

粉粒体の動力学。

砂時計の七不思議 田口善弘 中公新書

田口善弘著『砂時計の七不思議』読了。1995年中公新書刊。198ページ。

砂、食塩、米などの粉々が多数集合したものを粉粒体という。混ぜても混ざらず、重いものが浮き上がり、と、流体とも固体とも異なる奇妙な振舞いが注目を集めている。星も電車の乗客も道路を走る自動車も、見方によっては粉粒体だ。砂時計が満員電車なら、砂の流れは高速道路の車の流れ、砂山は”過加熱固体”といえる。物質主義から現象主義へと物理が大きく変容する今、日常生活のなかから広がる物理の新しい可能性にチャレンジ。

via: 表紙そで部分あらすじ

ニッチだなあ。粉体工学とゆう分野のニッチさもさることながら、「粉粒体」とゆう存在そのものがとてもニッチだ。

サイズが大きすぎても、小さすぎてもいけないのだそうだ。まさに砂粒くらいのサイズじゃないとダメだなんて、何ともわがままな存在ではないか。

しかもあるときは (気体や液体のような) 流体として振舞い、またあるときは固体として振舞い、しかも実態はそのどちらともいえない、なんてゆうんだから、わがままな上にとらえどころがない

砂粒の振舞いなんて研究して、一体何が面白いのかと思うが、これが満員電車や道の渋滞、さらにはシマウマの模様にまで関係があるってゆうんだから、世の中何が役に立つかわからない

本書は砂時計の砂粒が見 (魅) せる七つの不思議な挙動からはじまり、粉粒体の特異な性質を優しく解説していく。

日常的な例から入って、じわじわと専門的なはなしへとシフトしていく語り口は実に滑らかで、グイグイ引き込まれた。

やや専門的な話題もスッと理解できてしまうさまは、さながら粉粒体がすき間 (niche) に入り込んでいくようで、実に心地いい。

粉粒体のさまざまな挙動が雑談的に紹介されていくだけかと思いきや、気がづくと最後のほうでは物理学の本質に関わるような話題にも触れていたりして、最後まで読ませる。

粉粒体は宇宙の始原に思いを馳せるロマンもないし、はやりのフラクタルやカオスのような哲学的な深遠さもない。でも、砂時計が満員電車だったり、砂の流れが渋滞だったり、砂山が「過加熱固体」だったりするというのは、まったく違うように見えるものが実は良く似ているということに気づくという、物理の本当の意味での面白さをよく味わわせてくれるのではないだろうか。

via: P192

物理学の対象は、物体 (実在) から属性 (質) へとシフトしていると著者は結ぶ。「質の自然学」復権の架け橋となるべく、「物質」と「現象」のすき間 (niche) を埋める粉粒体。やはりニッチは面白い。

おわり。

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▼▼▼▼

ちょっと調べてみたら、本作は講談社科学出版賞 (1996年度) 受賞作であるらしい。現在は絶版になっているのか、Amazonでは中古でしか購入することができない。入手困難なのがつくづく惜しいと感じる、隠れた名著である。

主要な目次は以下の通り。

第一章 流れ落ちる
第二章 吹き飛ばされる
第三章 かき混ぜられる
第四章 吹き上げられる
第五章 ゆすられる
第六章 粉流体とは何か

via: 目次 (抜粋)

動詞からなる章立ては、東野圭吾さんの『ガリレオ』シリーズみたいで面白いなあと思っていたのだが、ロゲルギスト『物理の散歩道』へのオマージュであるらしい。

前から気になっていながら未読の『物理の散歩道』、この機会に読んでみようかしら。

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