聖なる怠け者の冒険 (森見登美彦)【読書】

      2014/08/05

いまだかつて、これほどまで動かない主人公がいただろうか。

聖なる怠け者の冒険 森見登美彦

森見登美彦著『聖なる怠け者の冒険』読了。2013年朝日新聞出版刊 (初出: 2009年朝日新聞) 。339ページ。

一年ほど前からそいつは京都の街に現れた。虫喰い穴のあいた旧制高校のマントに身を包み、かわいい狸のお面をつけ、困っている人々を次々と助ける、その名は「ぽんぽこ仮面」。彼が跡継ぎに目をつけたのが、仕事が終われば独身寮で缶ビールを飲みながら「将来お嫁さんを持ったら実現したいことリスト」を改訂して夜更かしをすることが唯一の趣味である、社会人二年目の小和田君。当然小和田君は必死に断るのだが……。宵山で賑やかな京都を舞台に、ここから果てしなく長い冒険が始まる。

via: Amazon (「BOOK」データベースより)

何ともうっとりするような装丁である。盛り上がる金文字は美しいし、ハードカバーなのにちょっと軽い。

聖なる怠け者の冒険 森見登美彦 表紙

カバーをべろーんと広げると、ひとつの巨大な絵になっているのも楽しい。

裏にはおなじみ「天狗ブラン」(以前は「偽電気ブラン」と言った) や、愛らしいダルマの姿も見える。カバーを剝がされたほうの表紙に描かれている、「ぽんぽこ仮面」のお面もカワイイ。

まさかのヒーローもの

とにかく主人公がひたすら眠る物語だ、てこと以外はほとんど何も知らずに読みはじめたのだが、まさかのヒーローもので驚いた笑。いや、「ぽんぽこ仮面」だからヒーローってゆうよりは怪人か。

夢の中でも眠ってまた夢を見るなんて、映画の『インセプション』みたいと思ったが、おはなしの向かう先は全然違う。似たような設定でも、ここまで何もかも別種の物語ができるってことが何だか面白い。

休日の過ごしかたを巡る哲学のぶつかりあい、なんて言うとだいぶ大げさ (笑) だが、主人公小和田君が言う「怠けるためなら何でもする」(P37) であるとか、「我々は人間である前に怠け者です」(P227) なんて主張はなかなか深くて、なるほどなあと考えさせられる。

つか何なんだよこの戦い笑。もうね、全力でくだらないの笑。あ、「くだらない」てのは褒め言葉です念のため。本作も森見ワールド全開、サイコーだった。

充実した土曜日の全貌

タイトルにも「冒険」とあるように、「冒険とは何か」 (P30) みたいな主張も暗に含まれてるようで面白い。

つーかね、こんなにグータラで動かない主人公の休日をひたすら描いてるだけのに、しっかりと「冒険」になってるってのがまず何よりもすげー。こんなテーマでも「冒険」を書けるんだよ、てゆう筆者の挑戦なのかこれ

小冒険を嗤うものは小冒険に泣く」 (P31) んだそうだ。小冒険、素晴らしいじゃないか。

要素てんこもりですんげー大長編のように感じるおはなし、つまりは「大冒険」のようにみえるのに、ある土曜日一日だけの、それもごくごく狭い地域の出来事、 てのも良いんだよなあ。

作中の言葉を借りれば、「充実した土曜日の全貌」(P17) って、確かになあ笑。

映画でも小説でも、短期間だったりあるいは限られた空間が舞台の、制約がうまい作品て大好き。それでいて本作は世界観がものすごく広がっているんだから素晴らしい。まさに自由自在。

時間的空間的な制約を軽々と飛び越えたり、現実と非現実を行ったり来たりして、はなしがどんどん膨らんでいく。なのに全然嘘くさくない、とゆうかそもそも制約を逸脱してるようには感じないから不思議だ。

おんなじところをぐるぐる回ってる (登場人物たちも実際におんなじところをぐるぐる回る。特に玉川さんが笑) ように思えて、どんどん盛り上がっていくような、らせん階段をぐるぐる回りながら昇っていく (いや奥深くに落ちていく?) ような感覚を味わうことができる。

何だか見逃してる伏線もたくさんありそうで、読むたびに発見がありそうなんだよなあ。

さいごに

世界観が『有頂天家族』 (狸繋がり!) や『宵山万華鏡』 (こちらは未読) ともリンクしているらしい。次は『宵山〜』読んでみようかなあ。

森見さんの小説を読んでるときに、ぼくのアタマの中に映し出される映像って今まではほとんどアニメだったんだけど、本作はちょっと実写に近づいたかなとゆう気がした。

描写が減って、会話が増えたからかなあとも思うのだが、理由はよくわからない。いずれにしても森見さんの「小説力」みたいなものはアップしてるんじゃないかと感じた (エラそうでごめんなさいごめんなさい) 。

まあ、顔がほとんどアルパカの「五代目」とか、説得力ある実写化を実際にやろうと思ったら、かなり難しそうだけどね笑。

全くおんなじセリフが夢と現実で出てきたり、小説的な仕掛けも満載でホントに楽しい小説だった。文章のトリックが物語とよくマッチしていて、世界観にどっぷりと浸ることができた

おわり。

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