DIVE!!〈ダイブ〉1 前宙返り3回半抱え型 (森絵都)【読書】
2014/09/19
わずか1.4秒の空中演技。高さ10メートルの飛込み台から、時速60キロでDIVE!!
森絵都著『DIVE!!〈ダイブ〉1 前宙返り3回半抱え型』読了。2000年講談社刊。220ページ。
日本ではまだマイナースポーツの水泳競技《飛込み》。学園生活を送りながらダイビングクラブに通い、オリンピックをめざしはじめた少年ダイバーたちをドラマチックに描く!森絵都、初の「スポ根」小説。
昔から「スポ根」が好きだ。子供の頃もスポーツマンガを好んで読んだ。
当時は登場人物たちが自分と近い年齢 (とゆうかちょっと上) で、共感できる部分も多いから楽しめたのかと思っていたが、本書を読むかぎり、おっさんになった今でも十分楽しめるみたい。
少年たちの青春は、あまりにキラキラしていて、時折眩しすぎるけどね。
おれたちの生活って、いつもなんか採点されたり、減点されてたりの繰り返しなんだ。いろんなところにジャッジがいてさ、こうすればいい人生が送れる、みたいな模範演技があって、うまく言えないけどおれ、そういうのを飛込みで越えたくて……。試合で勝つとか、満点もらうとか、そんなんじゃないんだよ。もっと自分だけの、最高の、突きぬけた瞬間がいつかくる。そういうの信じて飛んでるんだ。
via: P175
「スポ根」は、マイナー競技であるほど面白いと思っている。
『スラムダンク』のバスケットボールだって、連載当時はちょーマイナースポーツだった (とゆうか、スラダンがバスケ人気に火をつけた) 。部活から外れたら、日本ではバスケする場所がない、て陵南の福田が嘆いてたっけ。
本作で扱われる競技は、水泳の飛込み。もうこれ以上ないってくらいのマイナーぶりが素晴らしい。つかぼくは飛込みの選手を「ダイバー」と呼ぶってことさえ、本作ではじめて知った。
つーわけで、ド直球な「スポ根」小説、かなーり楽しく読むことができた。そいえばスポ根”マンガ”はたくさん読んだけど、スポーツ”小説”て読んだことあったかな。あー、野沢尚さんの『龍時』シリーズがあるか。
スポーツってもう、競技そのものを観るほうが圧倒的に楽しいし、文章だとちょっと動きを想像しづらいところもあってどーなんだろ、と思っていたのだが、そこはさすがに表現の巧みな森絵都さん、実に読みやすかった。
わからないなりにちゃんと分かるとゆうか、もうそんなこと考えさせないくらい、感覚的にスッと理解できてしまう。
身体動作を文章で表現する、てのは存外難しいように思う。プロスポーツの特殊技術なんて、感覚でやってるようなところもあるし。
けど最近は、イチロー選手とか中村俊輔選手のように、自らのプレイを言語化することを重視する選手もチラホラ出てくるようになった。言葉で表現できれば、実際にもできると言わんばかりに。
てことは逆に巧みな文章表現は、読みやすいって以上に、競技レベルを引き上げる可能性さえ秘めている、のかもしれない。
巧みな描写は身体表現に限らない。つかこの作家さんの真にすげーのは、巧さをまるで感じさせないほどサラッと書き切ってしまう、てところで、たとえを出すとこんな感じ。
ダイビングプール。
メインプール。
サブプール。
この三つからなる館内の喧噪。
ほうぼうで吹きあがる水しぶき。
それらすべてを超然と見おろす飛込み台。
その横でしなりをあげるスプリングボード。
プールサイドを駆けまわる子供たちの笑い声。
天井からのまばゆいライト。
プール特有の薬品臭。
一瞬の隙に襲いくるまどろみ__。
via: P46
もうプールなんて十年以上行ってないけど、この詩みたいな短い文章だけで情景がパッと浮かぶ、どころか自分があたかもプールサイドに立っているかのような感覚に襲われるんだから恐れ入る。
反響する音、独特の塩素消毒液の臭いまで蘇ってくるし、泳いだ後の若干だるい感覚まで追体験できる。五感全てを刺激される感覚、凄まじい。
他にも、ボディ・アライメントの説明 (P43) に、ぶどうときゅうりのたとえを持ち出したり、聳え立つ飛込み台を竜の怪獣になぞらえて、コンクリート・ドラゴン (オシャレ!) て名付けて (P92) みたり、テクニック的な表現もいちいちニクい。
あとスポ根て、登場人物がけっこうナヨナヨしてるところも好きなんだよね。本作も、皆ティーンエイジャー特有の悩みを抱えていて、とても初々しい。
「トモはおれたちのこと、べつにライバルとも思ってないし、ただマイペースに飛んでるだけで、勝っても負けてもどうでもいいって顔してる。そんなやつにだけはおれ、まけたくねえんだよな」
陵はすねた声をだし、「でも」とくやしそうにつけたした。
「でも、テレビや漫画じゃ、いつも最後に勝つのはトモみたいな無欲のアホ面なんだよ」
via: P123
キャラクタや設定から感じる空気が多分にマンガ的で、いかにも軽いなあと思っていたのだが、文章のタッチそのものが軽快、てのもマンガのように感じてしまう理由ような気がする。リズムがめちゃくちゃ良いんだよね。
この記憶が薄れないうちに、しっかり脳裏に焼きつけたい。油断すれば皮膚の間からすりぬけてしまいそうなあの感覚を、自分の内側へ閉じこめたい。
三回半。
いつもより多い一回転。
地球をもう一周……。
via: P181
軽すぎるってゆーか何てゆーか、子供にも読みやすいように意図して書いてるようなところもあるんだけど、とにかく全体的に視覚的なんだよね。
まあ、そんな軽さが味ではあるものの、時々ハッとするような文章に出会ったりもするから、軽すぎて何かちょっともったいないなあ、なんてことも思ったりした。
さいごに&オマケ
本作は友人に借りて読んだのだが、全4巻中の1巻てことに読みはじめてから気づいた。
さすがに最初の巻らしく、人物紹介が終わってさあこれから!てゆうすっごい良いところで終わってしまって先が気になる。
つーわけで2巻も貸してと頼んだところ、友人は1巻しか持ってないんだとか。何じゃそりゃ笑!
何でも図書館で借りて全巻読んで、気に入ったから1巻だけ購入したんだとか。なるほどなあ、本との付き合いかたってホント多様で、人それぞれ。
つーわけで、2巻以降を読むには自分で調達しなければならない。今なら文庫版が上下で出ている (上巻は以下) 。
ぼくが今回読んだのは、単行本版の1巻。これは全4巻。割高だけど、文字が大きくて読みやすい。ソフトカバーで開きやすいしね。
文庫はKindle版もあるみたい。ちょっとお得だし、角川はセールやることも多いからなあ。
つーわけで、つづきはKindleで読もうかな。
おわり。
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