天才スピヴェット (2013)【映画】アメリカ横断、飛び出す絵本
2014/12/12
泣き方だけが、わからない。
試写会にて『天才スピヴェット (L’Extravagant Voyage du jeune et prodigieux T. S. Spivet / The Young and Prodigious T.S. Spivet) 』鑑賞。2013年フランス・カナダ。ジャン=ピエール・ジュネ監督。105分。
『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネが、ライフ・ラーセンの小説「T・S・スピヴェット君 傑作集」を実写化したアドベンチャー。発明家を対象とした権威ある学術賞に輝いた10歳の天才少年が、授賞式出席のためにモンタナからワシントンへと向かう中で体験する冒険を映す。
via: シネマトゥデイ
主演はカイル・キャトレット。共演にヘレナ・ボナム=カーター、ジュディ・デイヴィス、カラム・キース・レニー、ニーアム・ウィルソンほか。11月15日公開。
明るい映像とは裏腹に、物語は哀しみに溢れている。
笑い7、哀しみ3、くらいがコメディ (それはすなわち「ステキな物語」と同義でもある) の最適な配分だと、ぼくは勝手に思っているのだが、どうも本作はこの割合が逆転しているように感じる。
いや、もしかすると3Dで観たらこの印象はガラッと変わるのかもしれない (ぼくは2Dで鑑賞) 。それくらい、画そのものは明るく、楽しい。何しろ2Dで観ても、ところどころ浮かび上がってくるように感じるくらいなのだから。
天才少年、T・S (スピヴェットは、苗字だ) と、その家族の物語。T・Sは二卵性双生児で、双子の弟レイトンを、不慮の事故で亡くしている。
表面的にはみな明るく振る舞っているが、家族全員が、レイトンを失ったのは自分のせいだと感じている。
舞台はアメリカのど田舎。美しい自然以外には、何もない。
キャラクタは一見ファンタジーの世界の住人のようだが、感情にはリアリティがある。哀しみとゆう感情。美しく暖かみのある風景とは対照的に、物語が持っている質感は、どこか哀しく冷たい。
そんなT・Sに、科学賞受賞とゆう、平凡で退屈な日常を壊す出来事が舞い込む。永久機関に関する発明が評価されて、スミソニアンから表彰されることになったのだ。
永久機関。何とも夢のある甘い響きだ。不可能であることが証明されているからこそ、この“絵本”のような物語にピッタリの小道具のように感じられる。
そう、この映画は「絵本」なのだ。3Dだから、飛び出す絵本。実際、幕間は飛び出す絵本のような作りになっていて楽しい。
授賞式に出席するため、ひとり旅に出るT・S。それはレイトンの死とともに失われてしまった、本当の家族の絆を取り戻す旅でもある。T・S自身は、そんなことを意図して旅立ったわけではないけれど。
モンタナとゆう、100年前から時間が止っているかのような、自然以外には何もない田舎から、大都会ワシントンD.C.へと向かう、列車の旅。
列車、とゆうのがまた良い。旅はやっぱり電車に限る。
旅をしながら、現在と過去が、またときには現実と妄想が適度に混ざり合い、独特な世界観が描かれていく。場所の移動、時間の移動、精神の移動。この夢のような雰囲気が、何とも心地いい。
それにしても、こんなに切ないロードムービーってあるだろうか。
旅先での出会いや人情、触れ合いなどなど、普通はロードムービーって暖かい空気に包まれているものだけど、T・Sの旅は冷たさと哀しみに覆われている。
さながら逃避行のような感覚。哀しい現実から逃げる旅、と言えなくもない。
貨物列車に積まれたキャンピングカーの寝室。夜のシーン。暗さと寒さがヒシヒシと伝わってきて、観てるこっちまで心細い気持ちにさせられる。
もちろん、個性的な人たちとの交流も描かれている (バーガーショップのシーンが好きだ) が、それよりも圧倒的に、この旅は苦難に満ちあふれている。
頭は天才だからこそ、子供であることが、切ない。重たいバックを抱えながら歩く姿なんて、観ているこっちが心配になってしまうほどに非力だ。
いや、あるいはこの旅は、本当の意味での”子供”に戻る旅、だったのかもしれない。
本作にはもちろん、悲しいシーンだけじゃなくて、笑えるシーンだってたくさんある。ブラックジョークはちょっと日本人の感性とはズレてるようにも感じたけれど。
それに、全編を覆う悲しい空気のせいで、笑えるシーンもどこかカラ元気のように感じてしまう、てのもある。
とゆうか、笑ったと思ったら次のカットで一気に感動させられたりと、その振れ幅が忙しい。大きく揺さぶられる感情。キライじゃないし、むしろ心地いい。
そして何より、T・Sを演じるカイル・キャトレットの健気さが、とってもカワイイ。これは癒しだな。荷造りのシーンが特に素晴らしくてお気に入り。
T・S (とゆうかこの物語) の雰囲気は、何か他でも出会ったことあるなあと考えてみたら、森見登美彦さんの『ペンギン・ハイウェイ』だと思い至った。
あの小説も天才少年が主人公で、どこか悲しみを帯びた物語だった。
やっぱりアタマの良い子供ってのは、どこか冷たい印象を抱かせるとゆうか、少年には無邪気でいてほしい、みたいなところがあるのかもしれない、なーんてことも思ったりした。
一気に畳み掛けて、全てが救われるラストは申し分ない。完璧。実にキレイな映画でした。
おわり。
作品情報
あらすじ
天才だが、それゆえに周囲との溝を感じる10歳の少年T・S・スピヴェット (カイル・キャトレット) 。そんな彼にスミソニアン学術協会から、最も優れた発明家に授けられるベアード賞受賞を知らせる電話が。授賞式に出席するため、彼はたった1人で家のあるモンタナからワシントンへ旅立つことに。さまざまな出来事や人々と出会いながら、カウボーイの父親 (カラム・キース・レニー) 、昆虫博士の母親 (ヘレナ・ボナム=カーター) 、アイドルを目指している姉 (ニーアム・ウィルソン) 、事故によってこの世を去った弟へ思いをはせるスピヴェット。やがて彼はワシントンに到着し、授賞式に臨む。
via: シネマトゥデイ
予告編
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